『理想工場の建設』という初心にたちかえり、いわゆる専業経営層の抜擢ではなく内部から自然に生えてきた技術畑の実力者をトップに添えれば、組織全体に再び命が漲ることもあるだろう。この処方箋には「工場第一主義」と書いてあるらしい。
こういう面からして今のところ適任は一人しかあるまい。専業経営者層はソニーなる特異な組織図の内では、飽くまで自ら生き生きと働くうつくしい工場の調整補佐役に徹するべきだ。
実際に、今のソニー体制上で唯一健全な市場競争に頑張る部位がゲーム機周辺である事実を重く見なければならぬ。その技術水準は世界有数あるいは最高度にあるからには優先して保護すべき場所も又。
技術に自信ある企業は屡々、消費者ニーズを軽視した独走の危険をともなう。この傾向を適度に抑えるのには「相談役」という外部監査体制上に、最大の能力をもつ専業経営者層を集めたほうが望ましい。だがソニー独自の価値観からすれば、自発的で愉快極まりなく、少数精鋭に特化した各工業の渉猟という目的にかなう為には組織の象徴に《金儲け》の臭いをちらつかせてはならぬのだ。
手をひろげ過ぎた各非工業分野への財界進出のスリムアップは、現状の経営優先の、企業愛なき浅はかな株主連の最期の希望とも遺言ともなろう。