2007年5月21日

詩学

雨月物語序文にある様、後世永久に流毒をもたらす芸術の悪用を為してしまえば既に、芸術家の魂は地獄へと堕ちぶれているのだ。
 果たして江戸時代の上田秋成にとっての良識が京都風物語の堕落した専制政治に於ける放逸を憎むこと多大なら、後世の民衆になるほど苦悩もまた増大然るべし。我々は平安女宮の理想とやらが、現代倫理から見なして如何に腐敗していたかを悟ればかの悪魔女史の供養も弔いうる筈。無神論者は一生の範囲でしか快苦計算をしないほど退廃しているが、輪廻の法則は祟りとなって彼らの子孫血統を蝕むだろう。
 芸術から道徳分子を一切除去し去ることはならない。唯、同時代において最純の理想を結晶させるこそ傑作の目的たれ。かくあればこそ時代民情の最もよき神髄は栄典に記録され、後世の反省模範に示しうる。