2020年6月26日

モデル

もし君がいなければ、僕の人生はもっと平坦だったに違いない。
その方がずっとましだったか、それとも。
どちらにしても、君があらわれたことで世界は、その根底からつくりかえられた。
色も下描きごと塗り直す。
下塗り自体を考え直す。
いや、画布自体を張り直す。
それでも二度と、君の様な人はつくりだせない。
それゆえ、自分自身の奥行きもなくし、自身を磔にする。
さも、二度とは帰れない旅先の大雨みたいに。
それが大地を打ちつづける土の音。
舞い上がる埃のどこにも、アスファルトの香りの果てにも、なんの留保もなく、君は消えてしまう。
霧か夜に降りしきり、既に記憶にも残りはしない雪だった。
そして自分だけがこの無限のなか、全くの闇にたった一つで、既に歴史にも残りはしない血の跡の様。
だが紛れなく君は現前し、生きていたのだ。