2011年4月24日

劇作

世界の人々が君のおもう程善良になりはしない、と烏が言う。世界の人々は君の念いより遥かに悪く、よさを好みもしない。その真っ暗な嘘と偽善の鎖の中で君は彼らと直面しなければならない。
 小さな箱。小さな箱が割れる。中からは多くの黒い生き物。しかし、人々は止められない。止めようともしない。黒い生き物の群れは観客席へ入って行く。場内は真っ暗へ。
 数分間たつ。
 次の場面。おどけた様子の黒子。舞台で何度もバック転。次々黒子が現れ、バック転しながら互いにぶつかる。画面の中央に盛り上がる人の山。突然、頭上から天井が落ち、黒子の群れは叫び声をあげて奈落へ。天井の裏で少年が烏へ餌を与えている。
 饂飩を啜りながら老人登場。サラリーマンの恰好。饂飩を零しながら嘲笑う。「金だ! 金の他、何もない!(岡本太郎風に目の玉を剥き出しにして)」。少年が驚きの表情を示さず烏を場内へ離す。烏は一巡して手元へ帰る。少年、烏を踏み潰す。少年、舞台袖へいなくなる。
 饂飩を食べ終わる迄老人は場内で同じせりふを繰り返す。一定感覚でケタケタ笑う。饂飩を食べ終わると、奈落から巨大なわめき声。老人、驚いて饂飩の汁をまきちらす。老人、びしょ濡れになり「ヒイー」と言って土下座する。天皇皇后が現れる。「お変わりないですか」といつもの調子で言う。老人、「ヒイー」と続け、苦悶の表情。天皇皇后は「それでは、皆さんお元気で」と言う。天皇を奈落へたたき落とす地響き。突然舞台が濃い紫に暗転。老人は「ヒイー」と言い、息絶える。
 場内、春の香り。紋白蝶が舞う。死人、片付けられる。暫く『春が来た』の合唱。二分程の後、ループへ突然、間にニュース報道が挿入される。「緊急地震速報です! 西日本人が金を儲けました! 繰り返し緊急地震速報をお伝えします! 経済活動を続けて下さい!」。次第に大きくなるニュースの声。場内の最も後ろから突然、大きな叫び声。舞台の緞帳がすばやく降りる。スキップをしている少年、幕前の袖の上で「金だ! 金の他何もない!」と割れんばかりの声を張り上げながら通り抜ける。終り。