2010年7月18日

あづまと

誰からも忘れさられた窓辺に咲く集真藍あづさい枯れし風の吹く日に
真夜中におそろしげな風鈴の音響きわたるしずかなまちの夜半
ねこのなく深い夜あたり鎮まりかえり打つ雨垂れの音のなげく夜更かし
突然の雨いそいでみれば雨樋のあふれがはげしくよあいにふりける
おそろしげな土すなまじりの山の水だれとはいわず木々の暴れぞ
闇に舞う月明かりゆくよの上にわがちとせすら海を漂う
気の長いあさのしらさごうちふしていそのさわ蟹よにも惑えり
旅縋らみた多摩川のいとおしきかおりのままにわれの若き日
多摩川にさらす手作り更々になんぞかの子のここだ楽しき
まよなかのとどろき谷をすぎゆけばすぐちかくには多摩川みわたす
幾とせのよを流れゆく多摩川よわが目の前を平きに習えり
雪のまに走り抜けたる川沿いのみちのあちこち桜ちりゐる
桜ヶ丘をみわたせば育つ子供の脇を家建つ
ひとけなきまちの調べはしずしずとゆく多摩川のおとの間に間に
夏ありてつぐ蝉の声ふきわたる台風うてなかぜ遅れひとたびなき止む
海のいろそぼはてしなく水のいろわがこころにも透き通る風よ
しぐれありばらの咲くうえに架かる輝くまがたまの如きくもの巣
よまいごと語る人とてわずかずつおちるひぐれに似て旅ばしるもの
涼しい夜風に吹きなればあおはるころのきびしさに立つぬるき風おもう
にいやどのみやこのたてものみなみればうなばらのもとうごめくいのちぞ
かむのとのまちあいにありてわれくらう西の海のそばかなしくしずかし
にたいえのどこに住まえるひとのこえ子らののこせるくるまうちふす
さくらにてすぎるどこへも生える艸すすきのいろもただ荒くるしき
つくば山底なきえどを見下してしあわせのごとく二山のこれる
よこはまのそらのえかきは臥しましてすぐ月日こそしるし留める
せみしずか高尾のやまへとつづくみちそとびとのよむ新たな聞きすて
月島のそらに架かれる月のこと忘れてしまう勝鬨橋あり
集まりてなにをなすかな人の波ただいたづらに築くあづまと