真夜中におそろしげな風鈴の音響きわたるしずかなまちの夜半
ねこのなく深い夜あたり鎮まりかえり打つ雨垂れの音のなげく夜更かし
突然の雨いそいでみれば雨樋のあふれがはげしくよあいにふりける
おそろしげな土すなまじりの山の水だれとはいわず木々の暴れぞ
闇に舞う月明かりゆくよの上にわがちとせすら海を漂う
気の長いあさのしらさごうちふしていそのさわ蟹よにも惑えり
旅縋らみた多摩川のいとおしきかおりのままにわれの若き日
多摩川にさらす手作り更々になんぞかの子のここだ楽しき
まよなかのとどろき谷をすぎゆけばすぐちかくには多摩川みわたす
幾とせのよを流れゆく多摩川よわが目の前を平きに習えり
雪のまに走り抜けたる川沿いのみちのあちこち桜ちりゐる
桜ヶ丘をみわたせば育つ子供の脇を家建つ
ひとけなきまちの調べはしずしずとゆく多摩川のおとの間に間に
夏ありてつぐ蝉の声ふきわたる
海のいろそぼはてしなく水のいろわがこころにも透き通る風よ
しぐれありばらの咲くうえに架かる輝くまがたまの如きくもの巣
よまいごと語る人とてわずかずつおちるひぐれに似て旅ばしるもの
涼しい夜風に吹きなればあおはるころのきびしさに立つぬるき風おもう
にいやどのみやこのたてものみなみればうなばらのもとうごめくいのちぞ
かむのとのまちあいにありてわれくらう西の海のそばかなしくしずかし
にたいえのどこに住まえるひとのこえ子らののこせるくるまうちふす
さくらにてすぎるどこへも生える艸すすきのいろもただ荒くるしき
つくば山底なきえどを見下してしあわせのごとく二山のこれる
よこはまのそらのえかきは臥しましてすぐ月日こそしるし留める
せみしずか高尾のやまへとつづくみちそとびとのよむ新たな聞きすて
月島のそらに架かれる月のこと忘れてしまう勝鬨橋あり
集まりてなにをなすかな人の波ただいたづらに築くあづまと