2010年6月26日

自分史

完全な暗がりの晴海で
僕は闇を見た
それは底知れぬ
どこまでもどこまでも深い
その頃僕はとても若かった
この世にはもっと明るい
大都市の夜景があるものだと
思い込んでいた
そこで見た闇は
自分が呑み込まれるばかりか
大宇宙の星屑を全て見えなくするほど
深い深い深淵
大丈夫かと声がした
それから地下鉄で帰った
イギリスの田園で
その花が咲く
マンチェスター隅の歩道で
街灯がちらつく
僕はその頃少年で
ひたちなかの駅前から
遠い会場へ向けて歩いた
夕方の生温い風
僕はその頃少年で
肌に受ける風さえも記憶するほど
この世の全てが傷つけてくる様で
スーパーカーが涼しさをかなでるのを
少し遠い会場の芝生で
未来からの言づてみたいに聴いた
真っ昼間の雨
教室の窓から眺める町は
多分永久にかわりないだろう
この町はそういう所だ
小さな疋蛙のこどもは
はこべの蔭からまっさおなそらを見る
大都会の真ん中で
僕は降り注ぐ昼の光でさえも
既に間違えてしまった
とりかえしのつかない答案の様に
なにもかも違ってるのを見た
小さなこどもの僕はあの渓谷で
静かに流れゆく星空のうえに
自分自身とその歴史を流し込むだけでも