2009年7月11日

かたつむり

昔むかしあるところに、小さなちいさなかたつむりが住んでいました。その虫は名前をカルゴといいます。そして友達の名前はスタブといいます。時々、屋上にのぼって空を眺めて遊んでいました。夜空はとても透き通っていて、何億もの星粒が見えます。
 ある日のこと、カルゴはスタブというその友達が見当たらないのに気がつきます。おそらく雨が好きな品種なので、水浴びかなにかで遠出したのかもしれません。カルゴは庭先の少し長めの草に隠れて、目の前の通りを歩いて過ぎ行く多くの客を眺めていました。しかしどれだけ待っても、スタブは戻ってきませんでした。
 やがてカルゴが大人になって、子供のいたずらで塩をふりかけられることもなく、その穏やかな一生を終えたとき、かれはふと気づきました。スタブという親友は、かれが抱え込んでいた家なのでした。親友はあるひ突然いなくなってしまったのではなくて、見えないのに彼と同じく雨に隠れていたのでした。そして夕暮れ時の綺麗なお月様を見て、彼の背中から多くの梅雨空をともに過ごしてきたのでした。
 カルゴはいなくなっても、スタブという友達は庭先でかれのお墓になって、蟻の行列やらカマキリの相撲やらを鑑賞しつづけるでしょう。多くの場合、かたつむりとはそういうものなのですから。