2005年10月19日

CM

川を遡る魚になる。泳ぐ為に泳ぐ小さな生命力となって前へ、前へ。摩擦と重力の抵抗が筋肉を鍛える。取るに足らない食事が活性酸素の発生を抑えつけていく。君は地球の律動の一部になって、空間と時間の、太陽と地上の軋轢アツレキを細かく、細かく、細かく調停する。自分自身の限界との競争だ。
 突如終点に着く。川は途切れ、流れ出す滝だけがそこにあった。壮大で、巨大な滝。君は偉大な自然の理力に感銘し、涙をこぼす。魚にはまぶたが無いから瞬きもできない。崩れ落ちる滝としてなみだは川になる。川はやがて海に着く。
 君は海上を渡っている鳥になる。飛ぼうが飛ぼうが、終わる事のない冒険だ。始まりしかない。やがて満月が昇り、少し空気が冷える。しかし問題はない。飛び続けるカロリー消費の故に全身は程良く火照ほてっている。まるでかもめのジョナサンみたく自由だ、自由だ。自由だ、空を泳ぐ魚、風を切る馬。
 君はを駆ける馬になる。どこまでも、どこまでも走っていける。走り続けていける。風景が切り替わっては消え去っていく。吐く息が白い効果になって空中で暫く留まって大気に融和する。設計通りの画像だ。
 僕は渋谷の交差点で大ヴィジョンを見上げていた。自分が創作した映像が街へ流れ出す。滝みたく圧倒的に。鳥みたいに、只で。馬みたくダイナミックに。このCMは成功した。