あなたは僕が美しい人に関心があると思っていた。
なるほどもしそうというならそうだが、
問題は余程の美人はまずいないということなのだ。
大抵の美人は並のそれで、
完璧な美人は探しても見つからない。
それなら美しい人など探す方が無駄かといえば、
頑張って探せば少しはいるかもしれない。
僕はルノワールの『女優ジャンヌ・サマリーの肖像』を、
18の頃ある美術館でみた。
その絵は僕に衝撃を与え、
まさか女性が美しいとは思わなかった僕を完全に洗脳し、
また絵画が可能な伝達能力に驚愕させた。
その絵はルノワールの感覚論と哲学のかたまりで、
要はこの世のさちを小さな画布に結晶させたものだった。
この貴婦人はあらゆる美を帯び、
われらの前でこちらをじっと見つめている。
彼女は永久の次元で幸せとは何かを湛え、
われらに人生を肯定する感情を植えつける。
しかしなるほどあなたより美しい人はいなかった。
僕はあなたを最も美しく描けば十分で、
わざわざ探す必要はきっとなかったのだ。
なぜならあなたこそが私の最愛の人で、
それより美人などというものが存在しえないのは、
はやくもルノワールの偉業が証明済みだったからだ。