2021年8月14日

手段の学問と目的の学問、学術城の例えからなぜ巨大技術企業群を政府自治体の倫理と法に従わせねばならないか

倫理・道徳と人間の知識、感情教育にあたる人文学(宗教学を含む)を軽視し、あるいはなおざりにして目的とせず、かつSTEM(Science、Technology、Engineering、Mathematics)と呼ばれる自然科学(理科)・数学・工学・技術の教育のみを主として受けた者は、動物より一層悪辣な人でなしになりがちである。これら数理科学は飽くまで社会・人文科学の従者であり、数学という科学言語や自然の知識は人間なるものが社会でどう生きるべきか倫理を学ぶために考究の手段となるものに過ぎないが、目的の学である道徳哲学を軽侮している者は、結局、全学問の入り口付近に立っただけで既に完成された段階にいると勘違いし、細分化された専門の中で虚栄心に耽るばかりか、実際に、不埒な悪事に数理および自然科学という道具的知識を乱用する。

 哲学という全学問の王座にとって、数学は道具、自然科学ならびに技術・工学は社会・人文科学の部分を構成する手段となるものにすぎず、各々の地位は不動である。なぜなら、人間にとって倫理なくしては人として満足に生きられないからだし、倫理なき社会は生きるに値しないからだし、社会なくして工学・技術はろくに意味をなさないからだし、技術・工学なくして自然の知識はことさら人間の為に働きはしないからだし、それらの認識なくして数学の様な記号遊びはなにかの分析に役立ちはしないからだ。
 哲学は目的の学問であり、すべての学問この従者として変わらない。また、この目的の王座にはすべての社会を統治する政治哲学があり、公徳の研究である政治哲学を支える私徳の研究としての道徳哲学が第一のしもべ(首相、総理大臣)として控えている。以下、貴族として人間に関する事を学び究める人文科学、それに次ぎ人間の生きる場を分析する社会科学があり、これらは上級の知識である。さらに中層には社会にしばしば参加しつつ野生に暮らしている生物科学がいて、その下に社会的生物と物理をつなぐ技術・工学がいる。下層には物理的世界を考察する自然科学がいる。これらの学術城の門兵をつかさどっているのが数学である。

 STEM教育は、これらの全学問体系に於いて、目的の学問に一度もお目見えする機会を得る事なく、 おおかれすくなかれ野卑な下層兵士と交わるだけで、単に自然の法則のとおりに生きれば人として十分、と思い上がらせるにすぎないのである。自然科学の誤り(自然主義の誤謬)というべきこの妄信あるいは自己過信は、文明に闖入した人でなし越権者が、倫理なき技術・工学により、生きるに値しない社会をつくろうとする学術的な専横であり、下層兵士による国討ち(クーデター、Coup d'état)の蛮行にすぎない。
 対して、常に我々の全学術の王座は、すべての知識を前提に、この世の政治を倫理に則り支配する哲学が占めていなければならず、これら下層兵士の実力行使による非人道な振舞いの数々を、我々が法と呼ぶ国民間の最低限度の共通道徳である威厳に基づいて統御しなければならない。法のうち、特に実定法は倫理を明文化したもので、書かれざる掟としての自然法と共に、社会を倫理と矛盾なく運用する為の統治の手綱である。これら倫理ならびにその現実に於ける補佐をする法の両方が、下層兵士のつくりあげたビッグテック(Big Tech。巨大技術、巨技)企業群など、わがままな営利追求もしくは私権拡大をめざす組織には、根本的に欠けているからこそ、究極で、それらの会社同盟は地方自治を含む政府自治体を為す事ができない。善き自治体は政治という世界全体公益の為の活動を主眼としており、その公事が倫理に基づいて行われていれば、そこで一部の者の営利性は全体の目的とは到底なりえないからだ。そして我々の生きるべき社会は、倫理や法の成立する文明側にある。したがって、STEM偏重教育の慣れの果てであるところの巨技企業は、常に自治体の倫理・法に従う必要があり、それを超えた営利活動や、倫理・法に逆らう何らかの恣意的かつ反動的な動きを、文明の中に属する人々が企業内規約の治外法権という形で少しばかりも放任すべきではないのである。
 もし、いづれかの自治体が人道に反する振る舞いをする人々に支配されていた時、これらの巨技企業が会社規約を用いなんらかの安全地帯をほどあれその現場に提供する事があり得るが、この場合も、各国各地の自治権を公然と侵害する巨技企業群のアメリカ中心主義、米国第一主義あるいはカリフォルニア人観念論などが、無制限に現地人の総意を超えて正当化されはしないのである。なぜならこの場合、巨技企業群は現地人全体の公益を図っているのではなく、治外法権を利用して飽くまで私的な営利を追求しているからであり、いわば情報植民地化によって現地人を生活の中身から骨抜きにし、奉仕の名目で金銭上の搾取対象としているにすぎないからなのだ。

数学

名詞: 数学, 数理