2020年8月15日

18才の自伝 第十三章 椎名町99円ショップ階段でみた地上階の光

『18才の自伝 第十二章 水色ジブリ系下宿との遭遇』の続き)

 この水色ジブリ系下宿(宇宙にそこにしかない)での出来事の前に、書き忘れた事があったので、17才後半の、椎名町ウィークリーマンション生活ころに時をもどす。このあとで関連性もでてくるし。

 僕はその椎名町ウィークリーマンションで大体、1か月以内くらい暮らしたと思うのだが、そのとき自分がどこで買い物していたかというと、今もあるか知らんけど椎名町駅からでて南側にあるビル1階(地上階)にツタヤがあり、その一個下の階(地下1階)に、99円ショップという恐るべき店があった。東京圏では100円ショップだの99円ショップだの100円ローソンだの、なんかその種の安売り店がかなり前からあるっぽいのだが、僕は地元で幼児の頃からサンユーストアとか一般スーパーに慣れていただけに、この99円ショップなるものの中で、なぜか生鮮食品類も売ってるのに最初まあまあ驚いた。
 そもそも僕の母方は商家であり、僕が子供の頃はコンビニに侵略されず現役でやっていたので、商売の内情みたいなのを児童ながらたまに(母に連れられ、夏休みに隣町にあたる北茨城中郷なかごう町の母方の実家帰って、泊まったりして)みていたのだが、99円で元が取れるという時点で正直、大層怪しいなりわいである。
 99円で利益が出るという事は、原価はそれより低い。しかしどうみても生鮮食品であってそれより安く仕入れていなければなりたたない。即ち、食べ物買う値段ではないので恐い。だってそれより安く買い叩いてるだけに、なにか通常ではないルートでしかありえないわけである。みるに普通の品揃えすぎて。僕は最初、ツタヤでCD借りようかにゃ、と思って看板だかをみかけたのでそのビルまで行ったんだが、入り口右の地下に続く階段の上(踊り場の所)に「99円SHOP ↓」と書いてあったので、フムフム? と感じおりてみたらそうなっていた。

 うりばみたら驚くべき事に野菜まで売っている。チューブわさびも売る始末。チューブわさびどころではない。レトルト食品まで売る始末。始末に負えない始末。始末どころか、大抵の食品手に入るんじゃないのこれ顛末テンマツ。しかもレジとかもなんか微妙に合理化されていて自分で袋に入れる。当時としてはまあまあ珍しい。それでここでうーん? いいのかと思いつつ、なにか買ってみた。

 僕が特に憶えているのは、この生鮮食品フリーザーの連なる、最後の光景である。そこは野菜がわりと沢山あった。かごもって歩いていくと売場回遊し行き着く場所なんだが、何度も書くが通常のスーパーと変わらないじゃん、感しかない。だが僕はレトルト食品の棚の間に入って恐る恐る、何かかごに入れた。
 それまで、自分はウィークリー近くのセブンイレブンでいわゆるお弁当とか買っていた。これは特段おいしくもなければ(僕にはね)、毎日それだとなんか食品添加物で死にかけてくる。よって救済されるのか? と思ったのだが、99円ショップ発見でも別に救済されなかった。部屋の自炊スペース狭い。結局、この発見で僕が得たのは、東京デフレワールドは正直、スラムじみた世界観なんだなっていう気づきを除けば(都民一般は井の中の蛙でそれをまったく自慢しかしてないので、農業県の食生活より遥かに貧弱なのを知らない)、スパゲティ茹でるのにすら苦労しかしないウィークリーマンションの生活苦。
 99円ショップはこの後も、僕が調布にくらしてるとき100円ローソン発見し、韓国製あやしいクッキー買うという奇跡と味で微妙にうんざりする羽目になるが、別に嫌いなわけじゃなくその後、何度か利用した様、スーパーがわりになる点ではコンビニよりお気に入りだったので詳しく描いているのである。

 この99円ショップが僕に印象深いのはあの地下1階にあるという位置どりであり、そこにもぐる時点で若干けしからぬのに、棚と棚の間も狭くて人とすれ違いづらいところにきて、慎重に大丈夫そうなのを選んで買って、なぜか値段が異常に安く、それを「99円SHOP」と書いてある袋持って地上に出る時だ。その階段はわりと広い。人からすると10人は横一列ですれ違える。だが出入りしてる人はいつも僕だけである。地下にもぐるとなぜか相当いてレジいつも混んでるのに階段上では誰ともすれ違わない。みんなエレベーター使ってんのか? そんなの地下1階だからありえないと思うのだが。その階段の寂しさだ。
 その光は、地上から溢れてくる。だが僕がもぐっている地下1階はそれよりは暗いだけではなく、蛍光灯でビカビカと人工的に、店内を輝かせている。偽物の明るさだ。それも99円の蛍光灯によるだろうか。僕は異界に迷い込んで、外に出る。こうして出て行ければどれだけいいだろう? 浪人階から。

 椎名町99円ショップで手に入る食料品は、普通の店にあるものと同じなのである、奇妙な事に。有名メーカーのもの。この意味では韓国製のなんか微妙に味が濃い(慣れ親しんだ味ではない)、原材料名とか当時僕には読めないクッキーとかが陳列してある100円ローソンと、違う。だがそれもまた恐い。なぜ大手メーカーが作ってるまともなはずレトルト食品が、本来498円とかの部類が99円なのか? 僕には疑問しかなかったが、実際に買ってたべてみるとなにか異常があるわけでもない。なんらかの理由でアウトレット化してるのを転売してる筈なんだが、詳細は隠されている。まるでドバタ美術界だ。

 自分は迷宮とでもいおうか、不思議の国のラビリンスといおうか。ドラえもんなしにファミコンで冒険させられてんの? レベルの謎冥界にいた。たった14段が、「99円SHOP ↓」の看板かかってる踊り場はさんで、2つ続いてるくらいの短い階段だけど。そこをのぼる僕は永久に近い時間プロセスにいた。