2019年10月18日

無償かつ無限定の人助けを中心とした日本文明に於ける利他性の回復について

神奈川県川崎市の武蔵小杉駅周辺のタワーマンションが先日の台風で被災し、上・中層階の住民と名乗る人々が下層界の住民に逆流した下水をおしつけながら差別的言辞を吐いている掲示板の写しを、先程ツイッター上でみたが、幾つか興味深い点を感じた。

 まずタワーマンションを専門で卒業設計にしたので、何度かその全体像を構想した事がある身からみると、階層性がそのまま、資本階級制に結びついている点を、設計者側はそこまで意識していない傾向があると思う。最上階を特別仕様にする等はあっても、一般的な設計は大抵標準階のコピーで済ませる筈だ。眺望その他の理由で、上層階ほど実勢価格が高価なフロアになる点、そして生活排水が下層階を通過する構造を、おおよその設計者は今回の被災まではそのコンセプト自体に組み込んでいなかったと思う。そもそもほとんどの超高層ビルは経済合理性を目的に、ミース的標準階コピーを繰り返してきたと思う。
 いいかえると、資本階層の表象化とならない様、上層階と下層階に分割されるフロアそのものの大きさとか、内容の差、周辺環境と絡めなんらかの質的な等価性をもたせる設計は、文化史上の有名建築で、余りはっきり表現された試しがなかったと思う。排水の設計についても下層階犠牲度をへらす必要がある。
 現時点では自分の知る限り、有名建築にあっては文化的実例をしらないが、将来、下層、中層フロアの方が、上層フロアより高価、又はその建築にとって象徴的な部分になる設計もできるということだ。アンビルドになるかもしれないが、自分に設計か構想、又は建設の機会がきたら実験したい。

 次に、人倫・地域文化面で興味深いのは、今回は武蔵小杉という一地域だけ集中的に被災したので目立ってしまったが、本質では、少なくとも東京圏は一定の生活様式をもつ9割商人の集まりで、文化・人倫圏で共通度があるので、どこで似た様な被災をしてもやはり、戯画的弱肉強食模様が出現したと思う。
 よく戯画化されたり、東京圏(例えば雑誌プレジデント社が所得階層として単純化して煽る様なピラミッド図)で語られる階級秩序は、「経済資本」、いいかえれば金持ちが上で少数派、貧民は貧しいほど多いという体裁をとる。現実にはもっと貧しい人達の方が数が少ないので、壺なり花瓶型になるのだが。




https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E9%9A%8E%E7%B4%9A
https://president.jp/articles/-/18495?page=2
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa09/2-2.html


それで、この経済資本主義は、実際には資本の全てを覆えていない。今回の武蔵小杉タワマン事件についてのツイートに、「カネで民度は買えない」という批評があって、要は文化資本というべきもののうち、公共心は一種の道徳的涵養にあてはまる筈だが、他にも社会関係資本にも或る不足がみられるわけだ。
 裏を返せば、東京圏は7割~9割が商人、特にサービス業従事者の会社員となっているのが現状なので、経済資本にかたよった評価という文化気質がみられる。端的にいうとカネが全てで、その他の人間性は相対的に低く評価する傾向である。江戸は特に東京改名前から町人社会だったし、特に驚かない話だが。
https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/h18/hakusho/h19/html/i1123000.html
なにがいいたいかなら、武蔵小杉タワマン逆流事件は、この東京圏の成金趣味を、極めて下品な仕方で表沙汰にしてしまった点で、そこまで激しい拝金傾向がない他地域(とはいえ、安倍政権以後は失敗したトリクルダウン政策ことアベノミクス下で全国がその傾向に否応なく晒されているが)の顰蹙を買った。すなわち単なる高層マンションの設計上のミス(経済資本化された階層秩序や排水の失敗)だけでなく、一定程度の文化摩擦を、主には国内の他地域、又は東京圏の住民自身の間にあらわにしたので、興味深い事例だと私は感じた。
 勿論より根本的には資本主義が、どの資本でも弱肉強食秩序なら邪悪なのだが。

 また2019年台風19号の到来時に、東京台東区の避難所で、北海道に住所があるという浮浪者がおいだされる事例が発生し、論争を呼んでいる。たしかにここにも、経済資本主義による階級差別が投射されている。税金払えない貧民は住民サービスの質も低く論は、政府の調整正義に反するが自由至上主義的だ。
 日本では天皇が神武の(神話上の、『史記』に天皇として書かれる中国からの)渡来・侵攻以来、階級制が発生し、米軍により国民主権が移植され今に至るまで、皇室(天皇制)として継続されている。そして右派一般はこの階級秩序を色々な面に敷衍し、経済・民族・門地・人種・性差別等も当然と主張する。資本主義は実際、この階級制と相性がよく、特に金持ち、最近の流行語でいうとセレブ(celebrity、名士をほぼ芸能人という意味で略した和製英語)の典型例として、皇族が振舞う様になっている。それで借金してまで婚約者がバイオリン習う等、或る種地位の印による差別化に顕示消費を図るわけだ。
 今回の事例でいうと、上層階の住民は既に高級ホテルに避難したが、下層民は自分らの流した汚水にまみれ愉快だ、といった、いわば弱い者いじめの喜びが、匿名で掲示板に書かれていた。現実の上層階住民の書き込みかは不明だが、天皇が1374年間味わってきた満足も、彼らの誇りも、正にそれだと思われる。私はその種の天皇的喜び(国税で被災地巡りの慰安旅行をマスコミと撮影報道するが、衣食住に事欠く主権者より立派な食事をし、御召列車で不自由なく帰京など偽善・露悪癖)が善意の物となんら思わず、なんの共感も覚えずそもそも非人道的だと考えるが、資本主義も、ある面で弱い者いじめでしかない。
 しかし、敗戦により米英崇拝に耽る現日本人の多数派は、その種の資本主義、もしくは皇室の存在意義になんの疑問も疑義も持っていないだろうし、いわば盲従しているのではないか。武蔵小杉タワマン逆流事件、東京台東区浮浪者追い出し事件は、いずれも極端に行き過ぎた弱い者いじめの暗面だと私は思う。

 日本単位で去年(2018年)子供の自殺率・自殺数が過去最高を記録した*1。また全国小中高校・特別支援学校でのいじめ数も過去最大になった*2(以上文科省)。なおかつ、イギリスの慈善機関CAFによるWorld Giving Index(世界人助け指数)の調査で、助けが必要な見知らぬ人を助けたかの項目で、125国の最下位になっている*3。
(*1 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20191017/k10012136541000.html
*2 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20191018/k10012137241000.html
*3 https://news.yahoo.co.jp/byline/iizukamakiko/20191017-00147100/
これらを省みると、東京圏は日本全体で最もその傾向がある地域の一つに入ることになるだろうが、経済資本主義の行き過ぎがあるのはおおよそ間違いがないだろう。そしてそれは、生活保護きりすてや消費増税などの格差拡大政策をくりかえしてきた、山口4区を地盤にする安倍政権と決して無関係ではない。
 山口県史は、大内氏と名乗る百済王族が朝鮮半島から入植し土着して以来、やがて戦国大名であった毛利氏の支配下に入り、明治期に徳川氏が天皇に禅譲してから、東日本・北陸・北海道・沖縄、朝鮮・中国、東南アジア等周辺地域へ侵略植民地化を主張する吉田松陰思想のもと日本政府を藩閥寡頭政してきた。
 現時点の安倍晋三氏も、この長州閥がおしあげ東京に送り込んでいる代理人といえるが、前回にあたる衆院選で彼に直接投票した山口4区の10万4825人は、同時に、全国1億2625万4千人の日本国民に、弱肉強食の社会をおしつけている様なものだ。自民党に入れ間接的にその階級制秩序を強化している人も含め。

 資本主義は行き過ぎていると、米国の主要経済団体ビジネス・ラウンドテーブルすら株主資本主義による極端な格差拡大に制動をきかせはじめたが(自分はステークホルダー資本主義は支配権の誤解ゆえ経済合理性に欠き、公的福祉の充実との混同による誤った経営論と思うが)、日本でも救貧が最優先と思う。
 また現時点の日本の右派一般が、安倍崇拝にせよ皇室護持にせよ、あるいは自民支持にせよ旧国体論(いわゆる水戸学に於ける大義名分論で、象徴なり名目君主として実権を政府に代理させた天皇が、国体を兼ねるという論理)にせよ、階級制を強化したがるのは、差別や不和を生み出すにすぎず、悪手と思う。
 専ら民情が極端な弱肉強食に偏っているのが現時点の有様で、福祉の切り捨てと自民党への企業献金をめあてにした大企業優遇によってそれを生み出しているのは、天皇含む自民党・安倍政権自身なのだし、共犯責任はそれらの悪意ある階級差別の強化に加担している自民党投票者全員にも、必ずやあると思う。
 それとともに今後、わが国はまた極端な反動がくるのではないかと私は予想する。ブルジョワユーチューバーがワイン飲んで、腹ペコでボロボロ服の貧民から15億円貪って、ある種の煽り動画を毎日アップしてる様子みるに、もうこの時期は長くないと感じ、強烈な市民革命が襲ってきて天皇制覆ると予想する。一見すると若者が保守化し、安全策とるために全く同じ黒服で作り笑いの死に顔しながら新卒採用自慢、ニート・低学歴差別してるいわゆるゆとり中~後期の若害秩序をつぶさにみてきた感じ、彼ら多数派は確かになんの役にも立たないばかりかAIにとってかわられるだろうが、少数が率い状況を変えるだろう。
 地殻変動の最初のあらわれが、あいちトリエンナーレ2019「表現の不自由展」で、明らかに反天表現なのをしりながら、百万人以上が署名した検閲批判で、いわば階級制の不条理を身を以て体験しているか、さもなければ潜在的に天皇制に反感を覚えている人達が、愛知県知事を盾にとって国に一撃したのだ。

 自分は資本主義の最大の批判者の一人だと思うし、それが根源的に私を餓死・過労死直前までおいつめてきた邪悪な信仰だと悟っているが、同時に、単なる共産主義や、通俗的社会主義(民社・社民主義)での反抗に限界があると考え、寧ろ加速主義に頼る様になっている。資本家側から矛盾を暴露する方途だ。
 また自分は、皇室の最大の理解者、研究者かつ批判者の一人でもあると思う。深い興味をもって彼らの事績や、いわゆる有職故実の数々を学んできた。だが同時に、世界の人権思想の発達、政体変遷と、その根本にある公徳についても見習おうとしている。自分の皇室学が理論面で地殻変動の原因かもしれない。

 武蔵小杉タワマン逆流事件は表象の一つでしかない。その根底にあるのは上述した弱肉強食の社会構造と考えると、今後の行方は、人助けを中心とした無償で、無限定な利他性の回復にあるだろう。投資リスク含む余裕資産の効率的社会還元としての資本主義解釈はいうまでもなく、文明自体、利他の為にある。