1.政府歳出が他国に比べ低いという論理構成をとっているが、ここには幾つも欺瞞が入っている。
2.故に日本も他国にあわせ政府歳出をふやすべき
3.結果GDPは上がる
先ず1について政府歳出が他国に比べ低いというよりGDP比でみて「小さな政府」に属するだけである*1。
*1
なぜGDP比で見る必要があるかなら、国の歳出規模を成長率でみるのは論理のすり替えだからだ。山本氏の引用する次の画像*2は、この詭弁で、意図的に日本の政府歳出額が少ないかの様、一般公衆を誤読させようとしている。
*2
他、政府歳出の規模が本当に少ないかだが、内閣府「国民生活に関する世論調査(2018年)」によるとまず最も国民側が要求している「社会保障」*5について、OECD諸国と比べ中くらいの支出になっている*3, *4。
対して3番目(18~39歳では1番)の要求内容「景気対策」*5にあたる「公共事業」は他主要先進国と比べ突出して多い*6。
*6
政府歳出の推移を米英仏と比べても、日本のそれは寧ろ規模を拡大している*7。そしてこの内訳は、主に政府による社会保障給付の増加である*8。いいかえれば日本政府は税収が伸び悩む中きちんと国民の主な要求に応えているわけだ(第二要求は高齢社会対策で社会保障充実に入るし、公共事業も伸ばしている)。
*7
*8
したがって、山本氏の主張のうち1.政府総支出(歳出)が他国に比べ低いは事実に反する。事実は、日本政府は寧ろ他主要先進国に比べて歳出規模を拡大している方で、国民一般の要求に応えOECD諸国に比べ中程度の社会保障を行っており、かつ景気対策たる公共事業では主要先進国より大奮発している。
次に山本氏の
2.故に日本も他国にあわせ政府総歳出をふやすべきとの主張についてだが、これはいわゆる大きな政府をめざすべき、という示唆になる。
この理屈のからくりを一言で解くと、彼は途上国や中進国における開発独裁下の急成長と、社会保障の充実を大いに混同しているのである。
既に日本の社会保障費が、OECD諸国で中程度にあることを示したので、日本の社会保障は北欧など福祉国家ほどではないにせよ、他先進国にさほど劣るでもない。
一方、彼の引用した名目GDP成長率が高い国々は、いわゆる途上・中進国である*9。即ち民需が未成熟で政府歳出が主な経済部門の傾向があるのだ*10。
*9
*10
ではこれを前提に、日本が更なる高福祉をめざすべきか。先ず日本は税収がOECD諸国で最低級に低い*11, *12, *13。いいかえれば税率が低い。
*12
*13
つまり国民が要求する社会保障・公共事業を行うには税が足りないので、政府は国債発行で民間から資金調達して、赤字分を補ってきている*14。そしてこの政府債務の規模は世界でも突出した額になっていて*15世界最大である(IMF, 2018) 。
*14
*15
日本の税収が他の先進国に比べ大いに伸び悩んでいるのは、低い経済成長率、つまり長期不況が続いているのに(あるいはそれゆえ民需に期待し)減税措置をしているからだ。そのうえ社会保障・公共投資で国民の要求に応え奮発しようと無理をしているので政府債務が世界一になってしまっている。
*16
*17
*18
*19
別の論文で分析したが(「日本経済の構造論」)、日本の長期不況の主な原因は、国内のお金の殆どを高齢者が老後資金に貯め消費せず、大企業も内部留保のうち現金預金などで貯め市場に回さないからである。つまり国民の貯蓄性向が高すぎ、消費性向が低すぎる。守銭奴なわけだ。ではこの状態で高福祉化をめざすにはどうするか。しかも山本氏はさらなる減税政策として消費税廃止、かつ追加歳出案として奨学金徳政令、最低賃金引上げ分の補填、公務員増大、デフレ脱却給付金などを訴えている。
ここで彼はいわゆるMMTを使っているわけだ。世界一の赤字国がまた赤字拡大すべしと。MMTは現時点で「社会実験理論」でしかなく、当然、無限の(山本版ならインフレ目標2%到達までの便宜的期間はあるが未到ならやはり無限の)政府債務増に過去全ての国々は耐えられず、超貨幣膨張・超物価高騰の異常事態に陥って財政破綻した。無限贋金作りの幕府みたいになり、市場がぶっ壊れたのだ。
「無限の打ち出の小槌がありますよ。国債発行なら無限にやってもいいんですよ」とケルトン氏はいう。それで日本国民が餓死しまくろうと彼女は責任とれない。
一方MMTを麻生財務大臣が否定してるのは、麻生氏も財政破綻否定論者だが、長期で国民が政府を見捨てなければ全部返せると思ってるのである。
少なくとも2010年にギリシャ経済危機が起きた。旧共産国みたく超インフレにまではならなかったが、財政赤字隠蔽・統計不備が明らかになったあたりで財政計画の甘さが悲観視され、もともとあった政府への不信から国債暴落、続いて株価も下落し、ギリシャ政府がEUへ金融支援を要請する事態になったと。 安倍政権も隠蔽・不正統計をやりまくってるのでもはや政府統計を信用できなくなってしまったが、この上、山本氏らがMMTで赤字拡大したら「どうせ返せないでしょ?」と思った格付け機関が第二のギリシアになると予想し、日本経済も金融市場の不安定化から政府への不信が高まり破綻に至るかもしれない。
この節をまとめると、山本氏の
2.故に日本も他国にあわせ政府歳出をふやすべきとの主張は、高福祉化に必要な前提条件が欠けている。赤字国債拡大に頼るのではなく、高齢者の貯金と、大企業の内部留保(特に非事業投資・非株主還元で事実上死蔵されている分)をいかに市中に回し税収をあげるかだ。私は後者について既にブログ記事で税制案を述べた(「消費税を付加価値税に正名し輸出企業にも負担させる税制案、及び内部留保税の投資鼓舞効果の考察」)。即ち
・消費税廃止かつ付加価値税を新設し輸出企業にも負担させる前者(高齢者の貯金を市中に回す為に)はオレオレ詐欺に頼らず、金融機関(つまり銀行や証券会社など)向けの投資促進法を立法し、主に起業間もない小規模事業者からの投資収益に減税措置を作ったうえで、金融機関に課税すればいい。そうすれば金融機関は進んで市中に高齢者の貯金を回すしかなくなるし、特に新経済への還流率が高くなる。
・付加価値税は日用品無税など軽減税率を含め他先進国と同等程度の水準にする(累進付加価値税)
・内部留保税の新設により大企業が貯金を株主還元・事業投資に振り向けるよう鼓舞する
簡単にいうと、おもに銀行・証券会社に預けられている高齢者のお金を、金融機関自身からこれから成長が見込めるベンチャービジネスにがんがん投資させ、つまりはエンジェル投資枠で起業家がお金を借りられる(いわゆる融資であれ、株式発行であれ)優遇条件を、税制上の大いなる鼓舞としてつくるのだ。高齢者はそれでお金がなくなるのではないかと思うかもしれないが、金融機関には法律上、預金保険制度が設けられているので高齢者自身の貯金がなくなることはない(現在一銀行あたり1000万円まで)。ここでも金融機関側への投資鼓舞のため中央銀行による全額預金保護を義務づける法文を追加すればいい。要するに高齢者のお金が絶対になくならない条件(全額預金保護制度)を法律上定義し、かつ、金融機関自身にはベンチャー投資しないと課税により収益率が低下する構造を作る。
次に高齢者がそもそもなぜ金を使わないかだが、特に年金不安が大きい。だからGPIFによる株式運用分は、「基礎年金」を超えた部分(超過年金分)に限定し、この超過分は投資収益の成果によって基礎年金に上乗せして給付する様に立法すればよい。基礎年金分は国債で100%確実にまかなうのだ。GPIFの投資収益がうまく伸びなかった年(単年赤字の時)は、この超過分を上乗せせず、しかも基礎年金は削らず支給する。いいかえれば物価上昇率に基礎年金分が追随するのを法的に保障し、年金を支払う人達に対しては、GPIF投資収益の一部を元本繰り入れの複利効果で将来、よりボーナス支給するわけだ。この方法だと嘗て年金を過去払わなかった人にもきちんと基礎年金分を支払える(高齢者向けの基礎所得状態になる)上に、年度(又は四半期)によってはボーナスもあるので、高齢者としても若年者としても老後の安心が確保される。したがって全年代、過度の余剰分を貯金する必要も少しは減るだろう。
もともと日本人一般の過度の貯蓄性向には、脳の不安遺伝子(セロトニン・トランスポーターS型というやつ)も関係しているかもしれず、制度的に貯金の必要がない状態を最大限つくってもまだ不安に感じて貯め込むだろうから、上述の基礎年金保障制度をやりすぎと思う必要は全くないであろう。
この節の本論にもどると、他国の参考例としてフランスは個人所得課税を大幅にふやしたが*20、一人当たりGDPや国民総所得でも日本と遜色がない*21, *22(それどころか長期バカンス文化*23なども省みるとフランスの方が余裕をもち働き、消費生活しているといえるだろう)。
*20
*21
*22
*23
上図ではフランスの一般社会税(96~98年)、富裕税付加税(2012年)、資産性所得に対する分離課税の廃止(2013年)などが実例だが、要するにピケティの主張に近く、程度あれ累進性をもつ社会保障分を新たに徴税したが、結果、日本より高い時間あたり労働生産性もあって生産力は日本人ほどなわけだ。
*24
つまり単に高齢者や大企業の死蔵されている貯金を市中に回す鼓舞のみならず、フランスを一つの財政再建成功の先鞭として、個人と企業とを問わず、徐々に社会保障の目的と一致する累進性をもつ増税を行っていけばよい(政府の収支が安定するのは日本経済全体への信用度を高め、有形無形の恩恵がある)。ちなみに山本氏は消費税廃止論者だが、フランスで同税に該当する付加価値税は標準税率が20%、軽減税率は農水産品や住宅、レストランなど一部サービスが10%、食品、書籍、障害者用機器が5.5%、一部の医薬品などで2.1%と、単に累進的なだけでなく必需や社会的弱者に負担が少なくなる様にできている*25。
この節について最後に付け加えるが、大小政府論は最終的に「中政府」が最善という結論に行き着く。政府部門が大きくなりすぎれば官僚主義の腐敗や市場の非効率、民間部門が大きくなりすぎれば弱者切捨てや社会不安が起きる以上、両者の止揚形が目的だから。アリストテレスのいう配分と調整の両正義だ。
先ず山本氏の主張する公務員増員だが、公務員数はパーキンソン法則でしられるとおり無駄に増大するので、これら公共奉仕の為に最少人数であるほうが望ましい。できれば高い奉仕度のため民間委託する方がよい。よって政府歳出のうち主な国民への経済波及効果を伴う公共事業・社会保障に限ると、日本は他主要先進国に比べ公共事業分がとても多く(図では比較国中最大)、社会保障分はとても少ない(図では比較国中最小)。しかも経済波及・雇用効果と逆の歳出先になっている*26。
*26
これは教科書的には日本政府が建設投資により、耐用年数が長いインフラ整備に力を入れてきた結果だろう(原発の様な公害を除けば総じて次世代にも益するので、成功と考えられてきた)。が社会保障を相対的に軽んじた副作用で、所得が中央値の半分未満な貧者の割合である相対貧困率はあがってきた*27。
*27
他国と比較すると日本の相対貧困率は先進国でアメリカに次ぐ。しかも2000年代からの推移を含め、OECD諸国と比べても平均から大きくずれ、貧者が多い方に属する*28, *29。年齢別賃金格差も大きく*30、また所得格差自体は近年再び漸増している*31。
*28
*29
*31
2012年から2015年の間に子どもの相対貧困率は下がった様にグラフに出ていて*27色々原因は考えられるが、統計不正がなかったとしても、一つはあまりに格差が開いて生活保護世帯も同期間、急速にふえたせいかもしれない*32。
*32
つまるところ、山本氏がいうGDPを政府歳出の経済波及・雇用効果で伸ばそうとすれば、経済波及・雇用の両面でより費用対効果が高い可能性がある上に、相対貧困率や所得格差を調整する役割の社会保障を主な支出先へと、これまでの公共事業重視から方針転換すべきことになる(コンクリートから人へ)。1.2.について論じた様、仮に社会保障の充実が課題となっても、MMT式に(期限つき)無限国債発行によるのは家政的ではない。消費税廃止、付加価値・内部留保税の新設などの新累進税制、基礎年金保障・GPIFボーナス制など年金改革に伴う金融機関投資促進法で、新経済を成長させ税収を上げたらいい。
現時点で自己責任論と呼ばれる、新自由主義政策下で世相にはびこっている弱者切捨ての病弊が民衆間にみられるが、これは一時的な文明の退潮にすぎない。人類は全体としてよりよい状態に向かうため努力するものだからだ。よって社会保障の程度も、意欲減退を伴わない中に向かって充実すべきなのである。
最後にいうと、いわゆる自由至上主義(libertarianism)の立場では政府部門を最小化したがる。計画経済の不可能さについてのハイエクの論旨をあわせ、社会保障も無駄の削減に入るとの意見もあった。要はこの立場は社会正義(ここではアリストテレス部分的正義)とは配分と調整の両面が必要と知らない。
確かに現時点で、安倍政権は、日銀に日経ETFを買わせ、株価維持と企業国有化を兼ねる共産化を進めている。これは自由競争を損ない旧轍を踏む。できるだけ早く日銀保有分を市場放出するのが望ましい。公害防止(外部不経済の内部化)を除けば企業は民間のもので、政府介入は市場合理性を損なうからだ。GPIFは国際分散投資の現代ポートフォリオ理論に基づく極力保守的な運用で、日本企業に偏り資産配分しているのではないので、ここでは共産化の範囲に含めない。例えば西洋最大の政府系ファンドなノルウェー政府年金基金も似た方針だが今のところ成功で、よりよい理論が見つかるまでは最善手だろう。
帰結。れいわ新撰組代表・山本太郎氏の主張を大略化した3つの論理構成
1.政府歳出が他国に比べ低いについて。
2.故に日本も他国にあわせ政府歳出をふやすべき
3.結果GDPは上がる
1.は事実に反し、政府は低税収下でも国債で賄いつつGDP比で中程度の社会保障や、大規模公共事業に歳出している。(確かにGDP比でみて小さい政府に入る方だが、それは低成長下で高税収が見込めないせいであり、国民要求への奉仕である社会保障・公共事業の歳出額自体は他国に劣らない)
2はまずMMTは財政破綻や、市場不安定化での国民生活一般への被害、超物価高騰・超貨幣膨張などの副作用が予想されるので自国に適用するのは愚でしかない。
よって上に詳述した
・消費税廃止・付加価値税の立法などで経済成長を促し、税収増を鼓舞しながら、結果として政府債務を徐々に減らしつつ歳出を行うべきだ。過ぎたるは猶及ばざるが如しである。
・内部留保税の立法
・金融機関投資促進法(全額預金保護制度含む)の立法
・基礎年金保障・GPIFボーナス制の立法
・各累進税の立法
3は「コンクリートから人へ」公共事業から社会保障へと歳出の中身をきりかえていくべきだが、同時に日銀による企業国有化(共産化)は市場の自由競争を損ない新経済へは抑制に働くため早期かつ徐々にETFを売却し、結局は公害防止(脱原発)や、福祉等の民間委託を除けば政府は市場干渉しないに限る。
なお公務員増は無駄の制度化につながるので悪手で、寧ろ民間委託先を透明性の高い公開された住民監視の元で競争入札するといった形で、癒着を避けながら政府部門もできるだけ外注すべきなのである。支出元が政府になっていれば、費用対効果面で最も公共奉仕が優れている業者を住民と選び取ればよい。
山本氏は公務員を安全網の代わりにしようとしているのかもしれない。だがこれは巨視経済の誤解で、安全網はより合理的な順に一律貸与(universal credit)、基礎所得(basic income)、生活保護捕捉率の最大化という社会保障立法で広げるべきで、経済全体でみたとき無駄の制度化によるのではない。
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*1 http://www.garbagenews.net/archives/2399196.html
*2 http://www.taro-yamamoto.jp/national-diet/9484
*3 https://www.mof.go.jp/zaisei/matome/thinkzaisei08.html
*4 http://www.zaisei.mof.go.jp/pdf/04-s02.pdf
*5 https://survey.gov-online.go.jp/h30/h30-life/gairyaku.pdf
*6 https://hodanren.doc-net.or.jp/kenkou/gkhtml/gktop/gk6s/gk6s3p/gk6s3p.html
*7 https://www5.cao.go.jp/j-j/sekai_chouryuu/sa11-02/s2_11_1_1/s2_11_1_1_1.html
*8 https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=55385&pno=3?site=nli
*9=*2
*10=*2
*11=*3
*12=*4
*13=*8
*14 http://www.hatan-taisaku.info/archives/253/
*15 http://honkawa2.sakura.ne.jp/5103.html
*16 https://www.nli-research.co.jp/files/topics/55385_ext_18_0.pdf?site=nli
*17 http://feel-japan.net/?p=4229
*18=*17
*19=*16
*20=*16
*21 Google検索(世界銀行)
*22 Google検索(世界銀行)
*23 https://news.yahoo.co.jp/byline/kimuramasato/20171211-00079191/
*24 https://news.livedoor.com/article/detail/14060508/
*25 https://www.jetro.go.jp/world/europe/fr/invest_04.html
*26=*6
*27 https://news.yahoo.co.jp/byline/ohnishiren/20170627-00072619/
*28 https://www.ishes.org/society/poverty/4th_povertyrate.html
*29 http://bigissue-online.jp/archives/1017887481.html
*30 https://honkawa2.sakura.ne.jp/4654.html
*31 http://honkawa2.sakura.ne.jp/4663.html
*32 https://wryyy.jp/shirogane/seikatsuhogo-fusei/