2019年6月12日

政治道徳の哲学が全生活の中で最も神的な活動

アリストテレスが理論的生活(観想的生活、theoriaの暮らし)を理想視していたのは、この立場が最も世俗的煩いから離れているという意味で全く正しい。実践はいうまでもなく忙殺に終わるし、制作に関しては理論にとって必要十分以上のそれは実践と同じ轍に填る。
 また一般に、愚者であればあるほど実践に近い活動を好む傾向が見受けられる。当然といえば当然だが、理論は言語知能を生かした活動で、記号の再配列という人のなしうる最も抽象的な活動である。しかし実践はこれに比べあらゆる不確定要素を含み、非主体的な影響、或いは偶然の変動を受け易い具体的活動である。今日知られている最も原始的な生物であるところの原核細胞も、実践のみの活動を営んでいる。
 結局、アリストテレスのいう神に限りなく近い生涯とは、理論的生活の延長性だといえるだろう。彼自身が哲学者だった為、自己正当化の為にこれを理想視したとしても、少なくとも全理論の中で最も抽象性の高い倫理哲学、特に最も広範に影響する政治道徳の哲学が、最も神的な分野といっていい。清談を好んだ東洋の政治哲学者らは、この意味で我が指摘を待つまでもなく同趣の伝統を持っていた。