社会の大部分は凡愚が作っているので、そこでは同調圧力という合理化(自己正当化、いいわけ)の働きで最も凡俗でとるにたりない人間を標準視させようとする差別的圧力が働く。一方、何かに傑出した偉人は常に、或る標準的な能力を大幅に逸脱し、しかも特定の能力が飛び抜けて高い人物だ。いいかえれば凡愚は偉人の正反対の集団で、それら諸属性の中央値に近づくほどますますそうである。
偉人を作るもう一つの働きは、特定の能力以外が平均値より低い方が有利である。なぜなら何でも卒なくこなしてしまっている限り、凡愚の同調圧力はその人を平均化しようと圧迫を加えてくるが、欠点が明らかであるほど凡人は足手まといとみなし、その人を同集団に加えたがらなくなるからだ。 この為、偉人は一般に重大な欠点をもっていて、しかもその落ち度が逆説的に長所に転化している。裏を返せば偉人は自身の欠点を利用して特定の傑出した能力を高めるのに集中できた人である。