BTC系の非中央集権の暗号資産、NEMの様な匿名資産、ADKの様な無税資産、これらは無政府資本主義を内在化しているので、法定通貨を発行する国家権力側が単なる無理解や未知への恐怖を感じつつも弾圧に逸る実には一定の理由がある。勝手者(libertarian)と非中央集権系暗号資産は極めて親和性が高い。ブロックチェーン技術の派生物には、民間企業Ripple社が既存の国際銀行間通信協会(SWIFT)の代替手段として開発したXRPを主とした中央集権系暗号資産もある。主に法定通貨からの一方向への交換のみが可能な商取引に使える企業発行のポイント等は電子通貨と呼べ、広義で電子取引上の法定通貨も含む。
ところで、日本政府はこの中央集権系暗号資産が、電子通貨以上に円等の法定通貨の商圏や税制を脅かすものではなく、寧ろ電子通貨より一層商取引を合理化し、国内・国際経済活動を促進するばかりか、徴税についても公開台帳により透明化できると知らない。
SBIグループの北尾吉孝氏がXRPを用い国際送金を合理化しようとしているのは、それがSWIFTを経由するより国際商取引を高速で手軽にするからだろう。これ自体に既存の法定通貨や徴税機構と矛盾する所はなく、寧ろ匿名性のない(資産の送受双方を特定できる)XRPが使われれば、経済活動も税収も上向く。一方で、現参議院議員の藤巻健史氏が銀行口座をもたない20億人を世界経済にとりこむという名分を掲げているのは、実際には、法定通貨に釘打たれた電子通貨を除き、非中央集権・中央集権系どちらの暗号資産をもこの範囲に含めているので、無政府資本主義的な要素を多少あれ含んでいる考え方である。
ここで国が問題にすべきなのは、非中央集権系の暗号資産は、特に匿名資産の場合、徴税権を働かせる為には送受双方の特定が厳密にはできないばかりか、暗号化されてもいるので、取引所を経由し換金された分がどこにしまわれても鍵なしには取り出せないということである。いいかえれば非中央集権系の暗号資産の内、匿名性が高い通貨は国の徴税権を工夫次第で逃れられる状態が既にある。そして地下的需給として一部の暗号資産、具体的にはADKが租税回避目的の勝手者を魅惑している資産価値の源泉のもそこにある。ADKは取引所自体が一か所しかない上に、発行者兼取引所側ははじめから租税回避市場を含め当該匿名通貨を流通させようとしているので、彼らも藤巻氏の名分と同じ目的を掲げてはいるが、実際には勝手者が最終的に各国の徴税権から資産を隠す用途が想定されている。
結局、徴税権の維持を或る国が重要視するなら、国法で非中央集権系の暗号資産の内、送受側の特定が不可能となる通貨の取引を国民に禁止するべきことになる。現状では送受側を特定でき、国内取引所で口座の持ち主や法定通貨換算額が分かるものもあるので、匿名通貨自体に問題があるのではない。しかし厳密には他国や租税回避地に取引所を置けばそこで法定通貨と暗号資産を交換可能なので、この禁止は実際には国内での暗号資産への一部の制限に過ぎないともいえる。が、パナマ文書等の既存の租税回避自体にも脱税目的がみいだされる限り、法定通貨にも租税回避地を使った際の罰則が必要である。
そして先をみれば、単に日本法が一部の送受特定不能な非中央集権系暗号資産や租税回避地を用いた脱税へ罰則を設けてからも、他国はそれに準拠していない以上、日本国民以外には徴税権が働かない、という事態があり得る。よって財務大臣・中央銀行総裁会議を通じ、地球規模で類似法を作る必要がある。藤巻氏のいう20億人余の銀行をもたない人々の市場は、スマートフォン等の浸透で暗号資産による商取引が半ば自動的に一般化するので、特に中央集権系の通貨の内、銀行と釘打ちするする必要がないXRPの様な通貨を中心として実現し、また興隆していくだろう。これは単にこれまで銀行の果たしていた役割を、取引所が果たす様になるだけであり、Ripple社のよう中央集権系暗号資産の発行者が民間企業として銀行に代わる役割を果たす様になるだけなのだ。法定通貨は、単なる実用性の面で、最終的にはXRPの様な民間の暗号資産にほぼとってかわる様になるはずだ。なぜなら通貨発行権を政府がこれまで中央銀行に管理させてきたことは、為替の流動性に関わる市場の不安化要因や、集産主義的な非効率性、中央政府の肥大化に伴う皇室・公務員等の浪費や傲慢など諸々の弊害、特に赤字国債発行による財政危機などを招来してきた。それを民営化してしまえばよかったのだ。
したがって今日の政府が為すべきことは、暗号資産の各取引所にこれまで銀行に付与していたのと同等以上の権限と管理義務を与え、預金保険制度によって取引所破綻時の法定通貨に換算した分の暗号資産を、各取引所に全額補償させることである。また一般の金融商品と同じ税制を暗号資産に適用し、法定通貨・電子通貨・中央集権系暗号資産、及び非中央集権系暗号資産の一部の間の為替取引を活発化するよう鼓舞する中で、実質的な民営化の範囲で十分な通貨間流動性を確保し、より商取引を自由に賢くできる様、金融政策の発想を転換せねばならない。
最後に、新たに通貨の概念が変わりつつある今、政府が専ら優先するべき金融政策は、各取引所に特定口座と同じ制度を容認させ、利用者側の利便性を最大化しながら、納税の義務を取引所に代行させることである。これは証券会社へ既にしてきたことなので、凡そ同じことを取引所に許可すればよい。