「お母さん、何であの首相はうそをついたのに怒られないの」と少年は尋ねました。「ボクも嘘をついてもおこられないの?」
「それはね。わるい人に神様が天罰をくだすためよ」
「天罰ってなあに」
「わるいことをしたひとにくだされるとっても痛いことよ」
「じゃあ、あの人も天罰があたるの?」
「そうよ。いろいろわるいことばかりしてきたものね。天罰が最初にあたらなければ、だれも納得しないもの」
「カミサマはなんでそれがわかるの」
「神様はなんでもしってるのよ。だれも隠し事はできないの」
少年は大きな津波がとおりすぎていったあとで、首相にあずけたおかねや、都知事がとっていったおかねをかれらが贅沢なくらしにつかうのを一人きりで、遠くからずっと眺めていました。
「お母さん、天皇というひとがきたよ」
大きな大きな地震がくりかえし、くりかえし、その小さな町を襲いました。人々はこわくて、おしこめられた奥の小さな避難所でふるえていました。
「あのひとは、お見舞いにきたみたい。そしてなにか言っていったよ」
「それはね」と母がいいました。「お礼にきたのよ。おおむかし、ここに天皇のいえのひとがきた。そのひとはまちのひとをいじめて帰っていった。いままで、なんの理由もなしに、まちのひとをいじめてきたことを謝りにきたのよ」
天皇は失われた国民の命に黙礼を捧げました。その日はとても曇っていて、いまにも雨が降り出しそうでした。首相は東京で大威張りの姿をして、従えた手下と贅沢な食事をしていました。避難所ではふるえながら、津波で流された家のかわりができるのを静かに、待っているひとがいました。都知事は、テレビの中にいて大声で「天罰だ!」と叫んでいました。