2010年1月31日

人類生物学

情緒を原始段階の発生史の名残りだと考えた者は、全く感情生活のない世界を想像するに及ばなかった。しかし、もし情緒が同等に個体発生史にくりこまれる特定の反応確率だと定義すると、この圧縮は起こるべくして起こる。感情生活の畳み込みは特に保護が必要な幼児期に、人類含む哺乳類には著しい。理知は協力か競争の形質としてはじめは求められたらしいが、次第に生態内の日用表現にも支配的となりだした。そして後期人類については、情緒圧縮が社会内猶予の間へ広げられた。つまり個体発生史の想像できる正道を逸れて、脱現代系の文明では変種への引き金が見つかる。それは感情能力が成人以後にすら延長されていく傾向。だが、当然ながらこの傾きはきわめて希な僻地の条件にまつわる遺伝の特異化にすぎないと思える。もし人類が自体の全体系を保守するつもりで、この為に自種の持続にあらゆる手を尽くせば正統の進化は当然ながら上述の情緒圧縮を徹底していくだろう。幼ながた化に伴い文明系適応への必要学習量が膨大となる適所についてのみ、この流れとは違う種類への移りゆきが入り込みつつある。
 ゆえ後期人類の中からは進んだ理知の大多数と、情緒の延長を決定的とした変種とが別れてくる。もし一般生物学の法則をその侭この場合へも引けるなら、変種の方は限られた適所で旧態の温存を司るべくして希に生き延びるだろう。そして常に勝利を収めた種類の最大多岐への分化という一般進化論の原則と同じく、人類以上への未知の生態学的変異は理知への機能強化を徹底した系統のその又一種から生まれるだろう。