2009年5月8日

あの虹

湿り気を帯びた空気が
私を子供の記憶に返す
だれであれ消えてしまうだろう
どこそこへうがたれた雨と
なにもなくなる前に
なにもなくなる
すべては昔そこにあった
昔そこで遊んだ
それだけの場所が消えてしまう
たださざなみの前には
山奥で見つけた巻き貝
今では野菊が咲く岡の上
見渡せば海だ
もう居なくなってしまった転校生
つぎの世代へ引き継がれてく机
だが代わらない音楽もいまは
ただ心の底をかなでる海のおと
私はその為にかわりゆくでしょう
水芭蕉の咲く夕べに
すこしずつ流れゆく小川に
生ぬるい風がまちを
一色の絵の具で浸して行くよ
どこか遠い都会で
知らない人達が悪さをしていたって未だ
世界は一つ残らず夜を
壊してしまったのではない
すでに忘れられたよぞらの星屑
待っている私はだれもいない校庭で
真っ暗な夜空の中にいる
一粒の流星が
地球の底で空を切るのを聞く
だがそれを語ることばでさえ
誰のものでもないや
雨が上がれば街が動きだすだけで
真っ青になったあじさいのそばを
這うかたつむりが
時を止めている間に
コーヒーを炊く
雨は窓の向こう
降るままになっている
あの虹が昔の歌をうたうのに
どうだろう
かれらにしたところで梅雨の
合図を捕らえ損ねたなんて
言わねばならないなんて
あっという間に過ぎ去ってしまえる
この世の思い出が隠された
宝箱の隅で眠ったお姫様をいつも