私を子供の記憶に返す
だれであれ消えてしまうだろう
どこそこへうがたれた雨と
なにもなくなる前に
なにもなくなる
すべては昔そこにあった
昔そこで遊んだ
それだけの場所が消えてしまう
ただ
山奥で見つけた巻き貝
今では野菊が咲く岡の上
見渡せば海だ
もう居なくなってしまった転校生
つぎの世代へ引き継がれてく机
だが代わらない音楽もいまは
ただ心の底をかなでる海のおと
私はその為にかわりゆくでしょう
水芭蕉の咲く夕べに
すこしずつ流れゆく小川に
生ぬるい風がまちを
一色の絵の具で浸して行くよ
どこか遠い都会で
知らない人達が悪さをしていたって未だ
世界は一つ残らず夜を
壊してしまったのではない
すでに忘れられたよぞらの星屑
待っている私はだれもいない校庭で
真っ暗な夜空の中にいる
一粒の流星が
地球の底で空を切るのを聞く
だがそれを語ることばでさえ
誰のものでもないや
雨が上がれば街が動きだすだけで
真っ青になったあじさいのそばを
這うかたつむりが
時を止めている間に
コーヒーを炊く
雨は窓の向こう
降るままになっている
あの虹が昔の歌をうたうのに
どうだろう
かれらにしたところで梅雨の
合図を捕らえ損ねたなんて
言わねばならないなんて
あっという間に過ぎ去ってしまえる
この世の思い出が隠された
宝箱の隅で眠ったお姫様をいつも