2006年11月5日

外側の物語

扉が開くと世界があった。波の音が大地をそそぎ、未開の場から流れる血が生成する生命群を洗い祓う。
 僕は無限の地平を観た。光蔭が矢になり大気を貫くのを視た。神だけが現であった。誰もその計画に関与できない。有るのは実行されていく遊びだけだ。僕は唯、黙ってそれを見ていた。
 死が地表を覆う頃、彼らは何を想うのだろう。子孫もなく、光もなく、膨張し続けるだけの大宇を前にどんな夢をいだくのだろう。
 彼らは何の為に育まれたのかも、何の為に散り逝くのかも知れず、ちょうど果かない羽虫のように希望に向けて飛び発ち、直ぐに時代の隙間へ墜ちていく。
 それでも彼らは種をまもる為に愛を交易し、繁殖する。文明は拡充し、降伏する。総ての文章は織られると同時に破られる。
 僕は世界を隈なく探険した後、ゆっくりと扉を閉める。そうすればもう、何も始まりはしない。
 僕は外で暮らそう。そこには命はないにせよ。