月の輪が世界を囲む夕べに舞う風に乗る雲。落ち葉が飛んでいく景色のどこかに、彼らは歩いている。午後の陽気の名残りはまだアスファルトに蓄えられて、薄い上衣だけを重ねて歩く人にも心地よい。いなか町には物語るべき事件もない。或いはそれも真実かも知れない。彼らはなんの変迭もない行人にすぎない。大都会が絶え間なく供給する情報群。そこから随分と離れた所で、森からたちのぼる霞がかる空。彼らの会話はもうすぐ暮れる一日よりもずっと、儚い。だが、誰もそれを責めはしまい。芒野がふわふわ揺れる風景のすき間に消える影ぼうし。わんわんばうわう言う犬の鳴き声だけが向こうから聞こえてた。物語はない。小説でもないちょっとした生活。