2005年12月25日

心音

穏やかな雨が地上をゆっくりと濡らして行く。雲が揺れている。私はそれを眺めている。
 物語は始まりそうにない。いつもの平和な空気が流れ続けている。私はそれを呼吸している。
 君は旅の途中にいる。構成されては解体される海からの風が、体温を静かに奪って行く。やがて冷えた手から血の気がひき、君は死に絶える。
 水が何もかもを浸す。正しいことも、間違ったことも、どころか君自身や時間も。やがて全てが消え去った後、屍だけが残される。誰にも知れない場所で蠢く魂だけが永遠と触れている。
 彼らは街の灯をただ何となく、眺めている。過ぎ去って行く光の塊が心音に重なり、幾らかの希望を刻む。そこには私達の生活がある。