2005年12月31日

月の秘密

草原に吹く風が優しく君の体を包み込んでいる。さらさら揺れる足下の雑草に紛れ、ハルジオンが可憐な花を咲かせ君に笑いかけている。そして地平線は限りなく広がる。世界に終わりはない。あたかもそう思える。夕陽が山の端に落ちて行く。そこには数え切れない先祖が、そして同時代に生きる我々が、また君のあとにいる子孫が見いだした切なさがある。やがて光はオレンジ色を通り越し藍色になり、消える。反対側の空には月明かりがいつの間にか輝いている。地上を見下ろし彼女は何を思っているのだろう。君は話しかける。お月様。われらの生きる意味を教えて下さい。彼女は顔色ひとつ変えず答える。
 やがて君は鋭い光に溶け夜の涼しい風になる。君の立っていた草原を抜け竹林を揺らし、清流を下って町中をうねりすぐ、海へ出る。どこまでも続く水平線に慣れて君は、月の秘密の一部になる。授けられた子は真っ赤な太陽として大空へ一気に昇り、地表に慌ただしい日を告げる。都市の高層ビルの頂点から君は、新しい年の朝焼けを眺めている。