君は野原を這うライオンになる。辺りに見当たらない獲物を探している。空には輝く太陽があり、地には生い茂る雑草がある。そして孤独の中で、生き延びる手法に想いを廻らせている。
君は遠い海を想像する。地中海の全てを明から様にする天空の下で、デッキチェアーに座って白い葡萄酒を傾ける。次に山奥の別荘を想像する。小川のせせらぎが鳥のさえずりに重なって、変わらない何事かについての詳細を奏でている。君は窓辺に立って深い思索に浸り、無限点の先を見つめている。
しかしそれらは今は単なる幻想である。君は砂漠のような茫漠たる緑の平原に置かれていて、目的の分からない生き残りに駆り立てられている。生き延びねばならない。熱くたぎる血潮が語る湧き上がる本能のままにやって来た。けれどもう帰るべき仲間達の空間はない。群れは老いた君に、不要のラベルを突きつけたのだ。
僕は日本の都市にいる。仕事に明け暮れたある日、君と街で会う。言うまでもないことかも知れないが、そこは小さな動物園だった。
我々は数秒間見つめ合った。何かが取り交わされたように思えた。けれど気のせいかも知れない。サバンナから連れて来られた檻の中の年老いたライオンと、コツコツと真面目に生きて来た、少なくとも周りにはそう思われている名も無き僕との間にどんな対話がある。
そして、僕らはその場を去った。