女は原宿のmontoakでカフェ・ラテを傾けている。スモークシールド越しに表参道を行き過ぎる人々を眺め、また、ストローに口づける。細い二本のそれはチャコールグレイの液体の中に無造作につっこまれ、ひとさし指先の動きに合わせ氷をカラカラと鳴らし続けている。腕時計に目をやる。時刻は午後2時。待ち合わせぴったり。
君は丁度、ラフォーレ前を通って十字路へ差し掛かるときだった。多少遅れたけど、喫茶店の代金を平気な顔でなにげに払えばきっと、再びここを通る頃に彼女は機嫌を直しているだろう。着いた。そして扉を開く。
女は彼がやって来たのを片目で見やる。わざとご機嫌が優れない様を演じる。でも、少し口元がゆるんでしまって、ばれた。
君はその微かなサインに巧妙なほど軽快につけ込み、わけの分らないフランス衒学みたいな口から出任せを次々しゃべる。そして何とか彼女の笑いを誘う。高が5分だが5分の遅刻。
彼らが店から出てくる。どこからどう見ても仲の悪くない二人。そして通りに溢れる波の間へ混ざって行く。
けやき並木のうち一本の上に停まる烏になって我々は、絶え間ない川の流れのような車のうねりを見ている。人間と機械の共演。もう見飽きた映画だ。