君は浜辺に立っている。空には満月が浮かんでいる。波の音が、BGMとして流れている。辺りには何もない。誰もいない。純粋で完璧な孤独が、君をひたひた癒やして行く。
どうして人々は戦争をするのだろうか。ふと、考えが頭をよぎる。どうして互いを憎しみ合い、何かを奪い合わなければならない。大きな海は寛大だ。それはあらゆるものを飲み込んでなお、広がり続けている。
月は冷たく見下ろしている。彼女は海岸線のざわめきの一部になって消え去りそうな君を知っている。ちっぽけ過ぎるほど何者でもない、小さな生き物よ。人間よ。お前はどうして自分自身を偉大だと信じるのか。
月との会話。
君「今晩はお月様」
月「今晩は」
君「あなたはどうしてそんなに綺麗に輝くのか」
月「私は知らない」
君「僕らは今日も愚かな争いごとに耽っています」
月「ご苦労様」
君「あなたはきっと賢いから、人間たちの様に戦う真似はしないのだ」
月「そうかもね」
君「あなたはまるで遊んでいるように見える。くるくるいつも表情を変えて」
月「それはどうかな」
君「いつも楽しそうだ」
月「私には仕事しかないんだよ」
君「重力に従う」
月「そうだね。しばし退屈な任務よ」
君「僕もあなたみたく単調な仕事に終始したかった」
月「人間は頭がいいからね。色々考えないと」
君「そうですね」
夏の終わりをそのまま具体化したみたいな生ぬるい潮風が君の体中をしっとり濡らして行く。
波の音が穏やかな一日の締め括りを表している。明日が始まるまでに少し、眠らなくては。そして君は家に帰った。