僕がその男と話したのは初めてではなかった。それでも、彼が何を言わんとしているのか理解するのに、しばらく時間がかかった。
「河童を殺せ!」
「河童ですか?」
「いなかったか? 全部が殺戮対象なんだ」
その男は河童狩りの免許をもっていて、あらゆる街々を渉猟し、もし河童が生き残っていたらみなごろしにする事で、生計をたてていた。だから河童狩りにやってきては、街の方々までどこかに居残っていないか探し回っていた。
河童とは何か。我々の時代では既に百科事典の奥にしかその知識はない。だが河童の姿は我々とあまりに似ていないので、いたらすぐわかる筈だった。実際河童はいた。
「いたぞ!」
「狩れ! 狩れ!」
河童は「マジカヨー!」と叫ぶと、河童特有の嘘八百を並べ、逃げようとした。
「逃がすな!」
河童狩りの男は、河童が逃げ込んで行く先を手元の機械にいれて、河童が集住している場所を見つけようとしていた。河童を一匹狩るごとに政府から報酬が出るのだ。一気に狩る為には泳がす事もある。事実、その時の河童はコーキョソドムとヤマウシロの二か所に別れて逃げ込んで行った。
「いたか?」
「ああ」
「今だ。狩れ」
河童は捕まると、もう息も絶えだえだった。何しろ、河童らの日常は薬物中毒かそれと同時に交尾することだけらしく、既に死にかけていたのだ。ただでさえ山のかげにあるヤマウシロのじめじめした真っ暗な山奥の、そのまた奥の井戸で、河童狩りに捕まった河童は即座に縄をかけられ粗雑なつくりの檻に入れられると、政府の処分場へ連れて行かれた。コーキョソドムに逃げ込んだ河童は妻子がいたらしく、どれも捕えられ、同じ様に処分場行きになった。河童狩りが河童の状態次第では見つけた瞬間即死させないのは、その方が遺体処理が楽で、政府としても儲けが上がる事があるかららしい。
「今度の河童は厄介だった」
「まさかあんなに汚ねぇとはな」
ヤマウシロ河童は巣で糞尿を垂れ流しながら狂態でいた為、簡単に捕まえられたのだが、政府としては奴隷化もできないので、当然だが、即強制処分するらしい。コーキョソドムの河童は絶えず不倫をしていて、自堕落なメス河童らの様子は見るも無残だった。
「やれやれ。河童がいなくなる日がいつくるのかな」
「わからんが、やつらさえいなければ平和なのになぁ」
「しかし河童のやつら、いつもいつもやることが醜すぎる」
「そりゃ産まれつき河童だからねぇ」
しごとを終えた河童狩りの連中は、口々にこんなことを言いながら帰途についた。その後ろ姿を見守っていた自分は、河童が一匹もいなくなる時代がくることを心から望んでいた。
かつて人類とも呼ばれていたあの生物には、確かに、どこにもいいところがないのだから。