僕にはこの世は心を引き裂くことしかなかった。
生きていた人々はみなひとでなし。
そして自分には何一つとして美とみなせなかった。
その意味で、僕の仕事は嘘をつく事なのだろう。
芸術とは単なる理想の写し。
本当の世界は不徳でおろかで醜悪な人々で埋まっていて、
なにもだれも救えない。
ルノワールは正しい芸術哲学を持っていた。
彼は徹底的に美しい嘘をつくことにした。
そしてその事は、芸術的に全く成功している。
彼は偉大な画家の第一分類にあがるといってよい。
だからといって僕がルノワール式のうまい嘘をつくより、
美徳として正直に世のありさまを語りたがる癖があるもので、
もしもあなたを傷つけてしまっても、
本当にあなたを愛しているという事は僕の心の真実なのだ。