我々はより余裕を持って生きる為に芸術というものを作るのだろう。実際、現実に比べて芸術による疑似体験の中では、より理想に近い感覚をたやすくえられる。元々芸術作品はその種の理想を体感させる工夫としてはじまったのだろう。 理想を全く知らない人と比べてみれば、理想をなんらかの形で感知している人の方が現実へ一定の距離感を保って接せるので、心に余裕ができる。さも軋む機械じかけに潤滑油をひいた場合の如くに。そしてそれが芸術というものの生みだせるあらゆる公益・公徳のうち、最大のものなのだろう。