2020年9月14日

孫悟空、ルフィ、ゴン、竈門炭治郎ら週刊少年ジャンプ人気少年漫画主人公らの冒険及び戦闘動機について

トイアンナというツイッターアカウントが『ドラゴンボール』主人公・悟空、『ワンピース』主人公・ルフィ、『ハンターハンター』主人公ゴンを引き合いに出しながら、ジャンプ大ヒット主人公は大量殺人鬼の素質ある、といいつつ『鬼滅の刃』、『ブリーチ』『約束のネバーランド』は動機がわかるのでいいといっていた。

 それに対し数百のアカウントが返信や引用リツイートしていたので全部読んだ。
 で、色々思ったのだが、PISA成績から日本人の子供の基本読解力下がってるといわれて久しいが、漫画はきちんと読めてる人が結構いるなって事。かなりの割合で「トイアンナさんは読めてないね」っていう批評目線。

 かなりの模範解答といえるものは次の2つかと思った。

1.

悟空はサイヤ人という戦闘民族の出生ゆえの本能
ルフィは大海賊時代の子供故に憧れ、更には恩人であるシャンクスに助けられたことから
ゴンはカイトに父親の事を教えられ父親の職業のハンターに憧れたから

動機が見えないというが、トイアンナ氏の読解力が足りないのか、そもそも作品を読んでないだけ

人様の漫画を読んですらないのにこの言いようを放つ人間、一度訴えられればいいのになと思う ――ボトさん

2.

・悟空はそういう民族。飯食うのと同じくらい自然に強くなりたい。
・ルフィは将来の夢だからしかたない。サッカー選手になりたい少年にいちいち理由を問うのか。強いて言うならメッシ的存在としてシャンクスがいた。
・(親に会いたいと思ったら)いかんのか?――TatsuroKita|億超えゲームPさん
トイアンナ氏が主人公の善性を疑義した3作品を、主人公らの動機からまとめ、反論しているし、ある程度は的確でもある。ただ悟空とルフィの動機読解についてはまだ浅い部分があると思う。

 上記の2回答は批評として70点くらいだとすると、具体的に悟空の動機を場面を引いて語っている次の2つは80点くらいかなと思った。

悟空1.
ちゃんとこれでもかと書いてますよ
まあそうならなかったifとしてターレスやブロリーが居るわけですし――名無しさん


悟空2.

悟空は亀仙流の教えが根底にある気がします
そして基本的には強い敵に対抗するためだった
ルフィはあの世界ではスポーツのトッププロがナンバーワンを目指すものでは?
ゴンは実の父親に会いたいって感情はそんなに疑問に思うことでも無い、凄いハンターだと知ればなおさら――KANOTHERZ@轟雷さん

 悟空単体の戦闘動機は、僕が鳥山明の原作何度も読んだりテレビアニメも子供のころ大体みた限り次の様なものになるかと思う。

 先ず悟空を含むサイヤ人というのは殺戮を是とする戦闘民族で、惑星侵略で地上げ屋式に星売りをしくらしている、死の商人が生業の、一種の蛮族の様なものとして、作中では描かれている。
 悟空は宇宙辺境の星・地球に、赤ん坊のままカプセル状の宇宙船で単身送り込まれ、地球人を殺戮侵略する筈だった。地球のある山奥に宇宙船が着陸し、赤ん坊の悟空を見つけたのは孫悟飯という仙人式にくらすお爺さんだった(竹取物語風に、竹藪の中で見つける。アニメ『ドラゴンボールZ たったひとりの最終決戦〜フリーザに挑んだZ戦士 孫悟空の父〜』)。
 悟飯は捨て子と思ったか、孫の様に悟空を可愛がって育てる。幼児期の悟空はある日、崖から転落し頭を打ってしまう。以後、粗暴な性格が邪気のないものに変わる。
 悟飯は名の知れた武道家であり、悟空もその趣旨で育てられ基本的武術を教わる。サイヤ人は月をみるとその夜中、大猿に変化し破壊殺戮を行う本能があり、ある夜、幼児期の悟空がおしっこをしに外に出ると偶然月を見てしまい、やはり大猿に変化する。
 悟飯はそこで大猿化した悟空に踏み殺される。悟空は大猿化した際の出来事について、元の姿にもどってから記憶喪失に陥るが、自分が育ての親である悟飯を殺したと自覚しないまま、何らかの理由で悟飯が死んでしまったと考え、山奥で一人育つ。
 この後、少年悟空は、7つ集めればどんな願いも叶う伝説のある「ドラゴンボール」を探しにきたブルマという都会娘と、悟飯の家があった山奥の近所で偶然出会う。野獣を倒す悟空の強さを見たブルマから用心棒にスカウトされ、悟空は、ブルマの旅につきあって、山奥の外の世界へ冒険に出る事になる。
 前述の人達が場面として出している武道の達人・亀仙人による修業の場面は、この後、「もっと強くなりたい」という動機に基づいて悟空らが教えを受けている状況だ(私的な意見をいうと、『ドラボンゴール』全体でこのクリリンとの修業辺りが、一番よく少年の健全性を描けている、と僕は思っている)。悟空は色々な劇的状況に飲まれ、本来のサイヤ人の稼業である惑星侵略ではなく、寧ろ地球人を何度も救う側に立って戦う結果になる。この為、サイヤ人の王子ベジータや、民族の総元締めであるフリーザらとも苦闘しつつ、勝利を収める。即ち悟空が大量殺人を行わなかったのは、少年期に受けた、亀仙人の教え(亀仙流武道)があるからだといって過言ではない。それは上記ツイート画像(原作3巻)で示されている通り、「武道は心身の健康さを獲得し、人生に余裕をもたらすものだが、不当な相手には容赦なく力を使え」という正義の武道論だ。
 大量殺戮を専らの生業にする星売り商の一戦闘種が、自らの本能で湧き上がる格闘欲――作者インタビューでも、「より強い者と戦い、勝ちたい」という純粋な格闘精神――を、正義の為に用いる様になったのは、それを年少教育内で覚えた亀仙流武道精神と一致させていたからだといえる。僕がこの亀仙人による修業場面が作品全体で一番好きなのは、悟空の全一生の根幹を作った偉大な教育が、軽妙な語りで活写されているからなのかもしれない。とにかく明るい。悟空とクリリンは一心不乱に修行するが、はじめ不可能かと思えた難事が徐々にできる様になる。しかも物語全体を終えて振り返って見ると、悟空の(あの世での物も含む)人格を形作ったその僅かな期間には、亀仙人の偉大な精神指導があったのだった。亀仙人は性的対象に弱いという欠点があるので総じて読者から小馬鹿にされていると思うが、やはり武道精神面では武天老師と仰がれるだけのものはある。日本の道徳でいうと、烈公『弘道館記』の文武不岐、俗に言う文武両道の精神と、悟空の受けた亀仙流武道の正義論とは、重なる所がある。純粋に強くなろうとするだけではなく、その力は常に正義と一致していなければならない。
 亀仙人は更に、武道とは実は勝利ではなく「克己」が真の目的だと説く。原作『ドラゴンボール』は本来の惑星侵略という種族の生業を捨て、何度となく地球人どころか彼の母星となった地球自体を救った悟空が、更なる修行に向かう所で終わる。克己の旅は果てしない求道そのものであり、要は永遠に終わりが来ないのだと暗示していると思う。武道家として宮本武蔵に近い考え方だ。宮本武蔵は『五輪書』で「千里の道も一歩から」という言葉で、悟空の様な無限の修行過程を説いている様に思う。日本以外の国に同様の思想があるとも聴かないので、日本の文武不岐の武道なるものを語る上で、烈公はいうまでもなく悟空も、或いは宮本武蔵も欠かせない存在ではないかと私は思うのだが。

 次にルフィに関してだが、僕は原作が余り好きではない(絵も下手と感じ好きではなく頻出する新キャラも余り立ってないし、語りそのものも似た戦闘のくり返しでマンネリ化していると感じる)ので、全体を読み飛ばす様にしかよんでいないが、1巻だけはとてもよくできているという風に思っている。もし『ワンピース』を一切読んだ事がなく読むつもりがない人も、まだ続いてるが、とりあえず1巻だけ読めば十分ではないかというのが自分の前からの意見であり、要するにルフィが海賊王を目指し冒険の旅に出る動機の部分が語られている。その冒険の詳細は混雑してきて筋が破綻しつつあるし、上等でない。
 が、動機づけの部分だけはとても立派に描かれており、今までの全体でも僕が読んだ限り一番感動を誘う場面でもある。
 僕は『ドラゴンボール』に比べ『ワンピース』ファンではないし詳細省くが、先ず大海賊時代に生まれた少年ルフィは、強い海賊団が村に滞在した際、シャンクスなる男と知り合いになる。シャンクスに別の海賊が喧嘩を売るが、シャンクスは戦うべき所をわきまえているのか特に事を荒立てず反撃しない。しかしルフィは子供なので、友誼を感じているシャンクスをかばい逆襲を企てる。その別の海賊に囚われルフィは海に投げ込まれる。ルフィは海賊になるには不適格な泳げなくなる実を飲んでしまっていた。
 調度そこに海の怪物が通りかかり、ルフィをのみこもうとする。
 シャンクスは海に飛び込みルフィを助け、怪物を追い払う。しかしそれと引き換えに、左腕を食いちぎられ、失ってしまう。シャンクスは再び海賊行為――全海賊団がほしがっている「ワンピース」と呼ばれる秘宝を探す目的――のため旅立つが、ルフィは旅立つ彼のところへ駆け寄ると、自分も(命の恩人であるシャンクスに負けないほど立派な)海賊王になってみせる、と宣言する。
 別れ形見の麦藁帽子を渡しシャンクスは旅立つ。

ルフィの動機なんてこれで十分だろ――FACT666〜真実を追求する者〜さん

 即ちルフィの冒険の動機は――心理的にはシャンクスとの友情と彼に命を助けられた恩返しでもあるが――シャンクスらと同じ海賊になり、できるものならば最強の海賊(海賊王)ともなって、彼らの探している秘宝をみつける使命に加わりたい、という野心である。子供ながらシャンクスの仲間になりたかったのだ。少年は危険な冒険に連れ立つ事はできない。だから置いてけぼりを食らうしかない。だがいつか自分も立派な海賊の一員になり、命の恩人に報いたい、というのが、ルフィが子供心に抱いただろう感謝の念であり、要するにシャンクスから命を救ってもらった義に対する武士道的な奉公心だといっていいだろう。それだけではなく、初めから大口たたきの野心家の嫌いがあったルフィだけに(その後の物語内でもルフィが、純真ながら間の抜けた所のある人柄である事がくり返し語られる)、彼の憧れているシャンクスを超え秘宝探索の目的を代わりに果たす事で、恩に報いたいと考えた所がルフィの独特な点だ。僕が悟空に比べてルフィがあんまり好きではないのは、このルフィの野心家ぶりに共鳴できないからだ。『ドラゴンボール』を読んでない世代からすると、野望が英雄性のモデルなのかもしれないが、悟空の純粋に強くなりたいという動機、かつ後づけで教わった亀仙流の正義の為の武道に比べ、動機が不純である。確かにシャンクスへの恩返しに成長後ルフィがシャンクス海賊団に加わって彼の左腕(最大の側近)になりたい、というならわかるんだが、それを超え、自分こそ野望を果たしてやろうという点が、『ワンピース』物語の抱えている最初からの欠点といおうか、自分には入り込めない部分だ。ルフィの利己かよと。簡単に言うと、秀吉が信長に仕える前から「いつか信長様を打倒して天下とってやろう」と宣言するみたいなもんで、所詮無法やくざさんたちであるところの海賊界だからそんなもんなのかもしれないが、ロックンロール過ぎ気持ちが着いていけない。悟空はその種の恩知らず系邪心がないから共感できるんだが。例えば悟空が強くなりすぎある種の手加減ぬきには嘗ての親友を簡単に倒してしまう様な場面でも、クリリンすまねえな的な申し訳なさを語ると思う(第22回天下一武道会)。ルフィはこういう面がないというか、僕は正直、彼に人間味を感じない。天然キャラは悟空と似てるがシャンクスに感謝より馬乗りだ。まだ物語が完結してないから最終場面の方ではなんか違う展開あるのかもしれない。
 いづれにしても、『ワンピース』1巻はよくできている。動機も一応だが野望混じりの友情であり、シャンクスへの憧れと恩返しのつもりのライバル心だといってもいいだろう。動機が少々特殊で悟空ほど分かり易くはない。

『ハンターハンター』のゴンは、サイコパス度の高いキャラだって事は他の人達が語る通りで、そもそも作中でもそう言及されている。それで善悪の倫理観を抜きに――いわば白紙の状態で、状況を切り抜けられる場面があるのが彼のキャラクター造型の魅力ともなっているのだろう。
 そしてゴンの動機は非常に分かり易い。親愛とそれに伴う好奇心だ。したがってトイアンナ氏は『ハンターハンター』をまともに読んでないのは明らかだろう。

 自分は『ブリーチ』と『約束のネバーランド』は読んでないから言及不可だが、『鬼滅の刃』では鬼化した人を主人公が大量虐殺しているのが確かだ。

 まとめるとトイアンナ氏の言及は次の点で間違っている。
 先ず『ドラゴンボール』『ワンピース』『鬼滅の刃』の各作品で主人公らが戦闘する動機はそれぞれきちんとある(『鬼滅の刃』については上に書いてないが簡略化すると親の仇の鬼退治だろう)。分からないなら原作ちゃんと読んでないからに過ぎない。
 一方で若干あたっている部分があるとすると、悟空は元々、戦闘民族で地球侵略・大量殺戮の為に送り込まれた宇宙人という点だ。それが児童期に頭を打って性格が変わり、育ての親・悟飯に人を慕って疑わない赤子の心や、武道の師・亀仙人から正義感をしつけられる中で、人道への救済意識の元、少しより人情味のある武道家に成長していく。
 元々、漫画の基本読解力(ここでは深い文学的理解ではない)のない人が適当に流し読みしていて、全く見当違いの意見を述べ、漫画ファンの敵意を買っただけの事案かと思うが、より深くみると、トイアンナ氏がそもそも戦闘連打に共感できず読み飛ばしただけなのではないかと思う。
「大量殺人鬼にはならなさそう」さを主人公へ共感できるかの目安にしているという事は、より詳しくは、テストステロン値の高い自己目的な格闘行動に共鳴できない、といっているだけではないだろうか? その意味で、少年漫画は一般に男子向けなので、男の子一般が入り込み易い純粋な戦いの描写が多いわけである。少女漫画なるものに戦闘シーンが連打するといった場面は先ず以てなく、殆どが恋愛・性あるいは社会関係性を巡る複雑な心理描写にあてられる傾向にある。この意味で低テストステロン値の人に共感し易いので、細かな心理描写の比率が戦闘描写の比率より多い方が、女子一般に人気になるのではないだろうか?

 因みに返信・引用リツイート全部読んだ限り、一番これはと思ったのは田端信太郎氏の「え、そんなふうに考えたことなかったw」ツイートだった。ここまで(少なくとも一見)なんも考えてないみたいなツイートできるのも一種の才能なのじゃないかと。何の為のツイートなのだろう?