2020年9月3日

激動

僕は上昇気流に乗り
無限に高く舞い上がる
その先に宇宙の果てにある
別の宇宙に辿り着く
だがその外にもまた宇宙があり
無限に泳ぎ続ける
この星を越えて
どこへ行こうとやはり
答えなど見つからない
生まれたわけも
死にゆくわけも
一秒でも長く駆け続ける為に
僕はこの気流のどこかで
息を吸う鳥になり
やがて宇宙船の上に流れゆく星の
そのひとかけらとなり
どこかで見失った君の言葉を
一つずつ拾い集めていく
無限に高く
果てしなくこの暗闇の中で
飛び上がる気球
しがみついたその手も離され
やがて誰もいなくなる
どんな星も見失われ
やまない雨のまんなかで迷う
命などどれも気のせいみたいに儚く
あすには誰のものでもない
再び石くれに返った魂
だがこの夜を越えて
僕は天地を壊し世界の外へ抜け
あの川のほとりで夢を語る
無限に深く
遡り続ける時の流れのどこかに
落とした宝物の指輪を探し
この足で水を蹴る
嘘が一つも残らなくなった暁に
既に倒れてしまった木々の合間に
もはや息吹一つ残されなかった荒野に
下らない衆愚の亡び去った骨の山に
紫色の空に
自分を見失ったその日に
太陽は新たな光線で
もう晴れないかと思えた雲を切り裂き
もう救われないかと思えた時空に風穴を開け
自由の隙間を作る
もし僕の絵筆が
努力の雫が
何か意味を持つその瞬間があれば
世界のページは更新され
途切れない列車の音の如く
騒音で満ちた大都会の中心で起爆された悪意の如く
一度も自慢された事のない高原の通り雨の如く
落し蓋の落とされた鍋が絶え間なく煮立つ音の如く
二度と消えはしない歴史を作るだろう
だから僕は語らねばならない
誰も知りえないまことのことわりを
いやそれどころか誰もが知りえた魔法の秘密を
誰もが消えてしまった地上のひとかどで
神として見据えたこの星の終わりで
サルスベリの一葉に吹き付けた真夜中の海鳴りとして
僕は前進し続けねばならない
もし君がいない世界だとしても
一瞬たりとも覆った事のない重すぎる巌をひっくり返し
モンゴル草原を全力で走る白馬の大群のその一員として
一匹のサソリ以外どんな生き物もみあたらない砂漠に
その体を洪水と共に押し流すスコールとして
僕は月の巡りくる影の内に
あらゆる存在を隠しながら
なおも刺し殺しあう血肉湧き踊る野生にて
一つも残らなかった贈り物の奪い合いみたいに
霧けぶる街に紛れ込んだ煙草の香りみたいに
十分すぎるほど重要文書につけられた赤い印みたいに
遂には見つからなかった美なるものの本質みたいに
僕は銃弾を込めてこのキーボードに打たされている
心の振動を少しでも押さえつける為の歌を
その微細動を