2020年7月20日

春馬物語

黒瀬深ってアカウント、どうみてもインフルエンサー分人で過去アカでも相当中二情感はいってる(ラノベ的な)虚言多いわけだが、機を見るに敏だから当然の如く三浦春馬みうらはるまネタにのっかってネトウヨ煽ってるのみた。
 春馬は『日本製』なる47都道府県の魅力取材した月刊誌連載本を2020年4月6日に出版していた。

 恐らく誹謗受けたツイートの「国力」とは、この雑誌連載での体験が反映されており、単に愛国政治 nationalism的なものではなかったと思う。総合的に全国各地のよい部分を取材したのだから、文化、伝統工芸、歴史、産業、風土など郷土愛 patriotismの文脈だったのだろう。

 複数ネットサイトの調べによると(故に真偽がどこまでかは別に)、春馬は幼児に両親が離婚、中学で母が再婚するまで片親だったという。その時期に一人っ子で寂しそうなのを哀れんだ母がつくばのアクターズスクールに春馬を通わせ、結果子役デビューに繋がった。高校は春馬が都内一人暮らしを択んだ。
 茨城県土浦から都内は通学できる距離だが、中学生・高校生の多感な時期に新たな同居人になる(直前まで他人の)継父と離れるのを自分から選択するのはひととして自然な考えと思う。決して春馬が継父と仲が悪かったわけではないらしいが。母は通学を勧めたが春馬が断ったらしい。
 その後、春馬は子役出身として珍しく本格派俳優として順調に成功していく。しかし多忙を極めた20歳(はたち)になる頃、限界を超えて実家の母に電話した。芝居が終わり楽屋にもどってから「農業学校」を検索し、地元に帰り、郊外に広がっていた田園で長閑のどかに、就農して暮らしたいと考えたらしい。

 春馬はそれまでも稼ぎを実家に仕送りしていた。母は電話口で大丈夫だと春馬を励ました。そもそも当時、母は継父と土浦駅前で飲食店を営んでいたので、就農の希望を伝えられても農業に詳しい知識があったとは限らないし、母も多忙だったのだろう。春馬はもう一度やってみる気になり、俳優生活を続けた。
 それまでも春馬は(今時都内では珍しい、古武士の様な)極めて真面目で誠実な性格だった為、魑魅魍魎チミモウリョウの芸能界で友人から危ぶまれる場面もあった。メンタリストDaiGoの部屋にきた彼は、他のふざけたところもある芸能人らと違って、自分から人生のアドバイスを受けようと真剣に話を聴いていたらしい。
 春馬と近しい他の人々も一様に語るのは、真面目、誠実といった少なくとも東男としては肯定的な意味になる彼の性格のよさである。
 だが彼にはその背後に脆さがあり続けた。恐らく家庭事情と幼少体験が関係している。27歳の頃、仕事の合間をぬって勉強に行った短期留学先ロンドンでもそれがみられた。

 ルームメイトは春馬が毎朝オートミールばかり食べているので共にスーパーに行くと、春馬は優にA4サイズはある箱一杯のパイナップルを買い占めだし、毎朝それを(恐らく二人で)鱈腹食べるなど愉快に暮らしていたが、ある日部屋にかえってくるや春馬が一人で椅子に座って泣いていた。
 春馬はルームメイト(男性)の手を握ると、東京の事務所から仕事を急かされているが、自分は自信がないのだ、と語った。
 ロンドンにいた日本女に見つかるやキャアキャアとサインを求められ、彼が祖国では人気俳優だと気づいていたルームメイトの目には不思議だったが、春馬は近く演じた『進撃の巨人』の配役も巧くこなせたとは感じておらず、原作のファンに申し訳なくてまだ自分の出る映画をみれていない、といった。
 春馬は子役から殆ど隙間なく、学業以上に働きづめの仕事人間だった。20代後半になってやっと自由な時間を得られた筈イギリスでも、頻繁に事務所から届く次の出演についてのメールは、心の負担になったに違いない。それでも彼は自分の運転する自動車の中で(仕事の)歌の練習をし、気を紛らわせていた。
 のちのインタビューで春馬は留学時の事を問われ、すごく羽を伸ばせたと語りつつ(たった2ヶ月だった!)、
「自由でいたい。本当に自由人なんです」
といった。しかしこの直後、彼の人生の歯車を全くに狂わせる事態がやってきた。
 茨城の実家は彼の故郷であり母元にある安全基地だったろうが、どうやら継父と母の関係が悪化し、それが失われたらしい。土浦駅前の飲食店は畳まれ(政権がいってる嘘と現実の落差からしても長期不況のご時勢なので珍しくはない)、母は祖母と実家を出た。これで春馬はいつでも帰れる場所がなくなった。

 元々、春馬は端正な外観とは別に、心の方は実に繊細、日本的な(武士道的な)意味で男らしく振舞おうと、無理に痩せ我慢をしすぎる傾向にある人だったのが周囲の目にも明らかだったが、この帰れる実家が失われた頃から、春馬は精神に不調をきたし泥酔の習慣ができた。友人が驚くほど酔っ払ったらしい。
 その頃接した友人の1人がヒカキンだった。酔っ払っていても春馬は悪酔いする様な人ではなくて、「YouTuberって仕事大変だよね、ヒカキン本当頑張ってるよ」と相手を気遣う事をいったらしい。現実には、春馬が最も人にいわれたい事を相手にいっていたのだろう。イエスの様に。
 雑誌の取材で全国を回る中、福島では田園を取材した。春馬ははたちの頃、就農を希望した事を思い出したに違いない。田んぼの真ん中で、あぜはたみちの間で両手を羽の様に伸ばす写真が残っている。「自由でいたい」と彼はいった。

 遂に彼へ運命が畳み掛けて行った。ある共演者が不倫で炎上していた。

 春馬は居てもいられず
「明るみになる事が清いのか、明るみにならない事が清いのか」
とツイートした。脳裏にあったのは両親の事だろう。調度、ハムレットが懊悩したよう、母が継父と接する事も思春期の彼を悩ませていた。

「どの業界、職種でも、叩くだけ叩き、本人達の気力を奪っていく」
彼が全47都道府県を仕事で回る中、遺作となったフォトブックでみられる国中の人々の息吹を感じ、自然に郷土愛がめざめたのは想像に難くない。それどころか彼は就農したいほど、地元を愛していたのだ。故郷に広がっていた田園風景を。
 春馬の故郷はある都内企業から魅力度調査と称し、10年近くも毎年最低だと貶められていた。彼は心の原風景を心無い人々にけがされ、ずっととても悔しかったのだろう。
 直前に自殺していた木村花の事件。作り事の劇場を本物かのようヒール扱いで、匿名卑怯者達が集団虐待した。同じ業界にいるその悔しさ。

「皆んなが間違いを犯さない訳じゃないと思う。」
恐らくこの文に込められているのは、彼の母へのゆるしだ。大体どうして自分だけ父がいないのか、幼児から彼は戸惑っていた。自分が成長後の今では継父ともうまくいかなくなった母。二度も間違えたと叩くのは簡単だ、自分も犠牲になったが、彼は自分へ無垢の愛をそそいでくれた母を愛していた。

「国力を高めるために、少しだけ戒める為に憤りだけじゃなく、立ち直る言葉を国民全員で紡ぎ出せないのか…(雪の結晶マーク)」
ここで言う国力が、政治的文脈でないのは最早明らかである。彼は私的な体験に根ざした、素朴な人間愛を語っているのだ。誰でも間違いを犯す。人は生きていく必要がある。
 春馬は思い出していた。
親には「ずっと素直で優しい子でいてね」と言われてます。それは守りたいとずっと思っている。たまに強気な態度をとったりしますけど(笑い)。
――三浦春馬
『三浦春馬さん「やめよう」19歳で悩んだ過去』(日刊スポーツ、2013年6月16日紙面掲載)
ツイッターには文章読解力が恐ろしく低い荒らしが大勢群れている。春馬は自分の精一杯のツイートに、沢山の誹謗中傷が通知されるのをみた。その中には春馬をネトウヨと罵り、失望したと呆れ、彼がコロナウィルス騒ぎの中で矢面にたたされ主演する新舞台を、もう見に行かないと唾吐くものもあった。

 更に、冒頭に挙げた致命的に彼を傷つけたツイートもあった。

「もし不倫の事を言っているのでしたら、小学校からやり直した方がいいと思います。」
もし彼が小学校からやり直せたとして、一体、別れた母親についていくしかなかった彼に何ができたというのだろう? 離婚とはなにかも知らないままで。

「国力を奪っているのは幸せな夫婦を人々に演じ、奥さんを裏切った東出です。」
春馬の目には、帰る故郷をなくした母へのあてつけに映ったに違いない。それは憤りを超えて、もともと落ち込む時には酷く鬱々とする精神的な弱みを抱えていた春馬の、けがれなき心に直接ナイフを突き刺す言葉だった。

「不倫が許される風潮にある芸能界は異常であると再認識した方がいい。」
もしそうならば、彼が物心つかぬ間に母に手を引かれ、茨城と東京を往復してがんばってきたこの一生はなんだったのだ? 自分はただの異常な人間なのか? いや自分の母は不倫をしていたわけではない。だが誰が異常なのだろう?
 アニメアイコンの、ツイッターでは頻出する荒らし系の捨てアカウント。春馬はその様なSNS世界を深く知るほど暇がなかった。単にこれらの言葉は、彼のファン達から送られてくる、一般的な応援にまぎれていたのだから。
 いづれにしても春馬はその頃、表向き気丈に振舞っていたが心は既に壊れていた。
 春馬はそれまでも手帳に密かに心の中について、死生観を交えながら書きつけていた。それでも仕事は追ってくる。もとより、その複雑になりすぎた内面に真剣に向き合う暇もほとんど残されていなかった。
 彼がクローゼットの中で見つかった時、誰かが言った。ザマアミロ。やつはネトウヨだったからな。勿論その国力の証が彼の耳に入る事はない。

(挿入画:拙作。『茨城のハムレット(三浦春馬の肖像)』2020年、資料写真をPaint.NETで加工したPNG画像、1280 × 853 px
参考資料集:101112131415161718192021222324252627282930313233343536