2019年8月30日

愛国教育の行方

おとといみた愛知県豊橋市の或る高1らしき人が、右派一般を差別リストに入れ、「なぜ自衛隊に入らないの?」と書いていた。この人に悪意があるかでいえば多分あるだろう。思想・良心の自由と徴兵制は別でなければならないと認知できる筈なのだから。
 差別リストに或る人を入れる、という或る種の付箋貼りそのものが浅はかな差別の一なのは当然として、もっと深刻なのは、この人の中で自衛隊が愚かな犠牲と捉えられている節がある点だ。これにも私は甚だ文化衝撃を受けた。はじめてみた考え方で、自衛隊員をそこまで侮辱する言動もみたことがなかった。

 私は思春期の頃、電車の中で「合コンのやり方」なる本を公然と開いて読んでいた若い自衛隊員をみたり、実際に或る中年の自衛隊員と身近に接して彼らの思考が典型的な体育会系のそれなのを悟って、自衛隊なる隠れ軍隊組織にかなりの忌避を感じる様になったが、その人の差別的見方はショックだった。
 自衛隊員は自分の身を呈し祖国を守ろうと行動すべくしつけられているわけだから、愛知県豊橋市の一高校生からまさか愛国者が自滅する為の虫籠みたいに差別リストの説明書きで揶揄の文脈に置かれているなんて知る由もない。これはその高校生が教育の中で、軍の意義を教えられていないからに違いない。

 また私個人の政治思想からいうと左右でも中道でもない。例えば皇室廃止論を大統領制への移行を先読みし採用するがその論理を絶対的に信じているわけでもない。自由・資本・民主主義を疑うのは無論、自民党の国家社会主義や社民・共産主義にも一定距離で批判的だし、現時点で分類できない考え方だろう。

 文脈で大体わかるかもしれないが、この高1はいってみれば右翼一般を適当な分類で差別し(現実には右翼的考えでない人もそこに恣意で陥れ)、なおかつその人達を自衛隊員にとりたて、戦争などに投入し自分を守らせた上で、悪意を以て殺そうとしているのだ。この悪意をなんと名づければいいのか。しかもこの高1は、自衛隊員を無駄死にする特攻隊員みたいにあげつらった上で軽蔑的に扱い、自分を守っている人を婉曲的に差別リストの象徴みたいに侮辱している。安倍首相が日教組日教組と国会で嘯いていたが、正反両面で、ここにその本質の一端が現れているといって過言ではないと思うのだが。
 その上私がショックを受けたのは、この高1は同時に「荒野行動」「PUBG」というまさに軍事行動を模擬するゲームの大ファンらしくほぼ毎日やっていて、友人との些末な雑談を除けばそれらの内容ばかりツイートしていた。自分は仮想空間で遊び、右翼一般と自衛隊員を差別し戦争投入で殺そうという悪意。
 因みにこの高1は女だったのだが、自衛隊にせよ米軍にせよ女性隊員は沢山いるわけだから、自分を安全地帯に置いて愛国者全般を無理やり付箋貼りで捏造しながら差別し、避けようがない防衛戦争などの際もその影に隠れ自分の身だけは守ってゲームで遊んでいようという大変さもしい根性。驚くべき退廃だ。

 我々、寛容度が自民党員全般より高いだろう人間は、なぜ安倍首相らが密かに行ってきた経済徴兵もどきだの、国会でも森加計教育でも愛国啓発じみた言動を彼がとっていたのか全然無自覚だった。つまり我々にはその種の高1みたいな人間、悪意で愛国者らを犠牲にするサイコパス的実在が盲点だったのだ。私は安倍首相はダークトライアド度が物凄く高い人物だと思っているが、この場合、彼の方がその種の高1みたいな相当程度のサイコパス、すなわち真性愛国者を差別対象や犠牲とし自分だけ自衛隊制度だの国政へただ乗りしている人間を、彼と似た性質として想定し易かったのである。
 戦後教育下で、自衛隊の地位、或いは健全な愛国心が、愛知県豊橋市の一高校生の脳内で、ここまで貶められているなど私は全然しらなかった。その人からみたら愛国者は差別主義の馬鹿遺伝子で、したがって殺されるべきで、自衛隊はその為の処刑装置ゆえ、己は戦争ゲームで遊びつつ彼らを殺処分すべきと。実際にその高校生が、直接そこまで考えていたかとは別に、その人の言行を逐一追って分析するとそういう国政上の論理が出てくる。要は優生学の反日版みたいなものだ。その高校生が安倍首相がいう通り日教組系の教育受けてるか知らないが、私はこの点で考え方を改める必要ができた。

 これまで国内の戦後自由派の世界観では戦争は邪悪なるもので、防衛戦争すら最小限度しか認めるべきではないとの論調だった。ここからいえば安倍首相の侵略是認は言語道断の蛮行なので、人々は彼が明治長州閥かぶれの愚官と思ってたわけだが、実は高サイコパス度の人々の間では普通の考えだったわけだ。すなわちその高1みたいなただ乗り愚民を経済徴兵し、対米追従で殺処分してもなんら構わず、自身の自民党総裁兼首相の地位存続には最も合理性が高い選択肢と、その高1に優るとも劣らぬ無慈悲な考えで安倍首相は愛国教育、自衛隊を軍隊に加憲云々という。それはその高1みたいなのに相応の処置だった。
 乾いた笑いが出てくるのは、その高1も、恐らくだが同調圧力のせいか無知のせいか自民党支持者だろうし安倍政権支持者だろう。完全に独裁者のなすがままにされている愚民。それはいいとして、進んで愛国心に仕えていた侍とか紳士の様な貴族精神は完全に吹き飛んで、祖国防衛が殺処分相当とは恐ろしい。
 また、右翼一般を差別する論調にも、その高1という反例のお陰だが完璧な偽善を私はみいだした。誰であれ善意なら自集団の健全な発展を望むだろうし、そうなら認知分類の誤りがあろうと素朴な自集団ひいき(いわゆる郷土愛)を軽蔑する理由にもならない。だがその高1は愛国者を殺処分対象とみていた。
 無論、もっと深くは国なる利害関係集団の塊が機能不全になっていく序盤でみた、或る子の滑稽なサイコパシーに過ぎなかったのだろうが、そんな中で体育会系軍隊論理でパワハラじみた虐めを受け、或いは海外派兵で病んだり自殺してしまった国民すら、殺処分相応な愛国差別論者の末路扱いでは報われない。

 私はその高1の考え方には甚だ悪意があると思う。そして今の日本の高校生一般の考えとぴったり同じともそこまで思わないが、ある面では安倍晋三なるダークトライアドの邪悪さを、子供が模範としてまねている現象の典型例と感じた。そしてその堕落はやがて彼ら自身の進退に業として巡ってくるであろう。