我々が芸術を作るのは、死を悟っているからだ。遺伝子を超えて未来に模倣素(meme)を残すのが純粋芸術の基本目的で、それは我々の遺伝子が残しうる最も滅びから遠い要素でもある。永遠の命に代わる自己の思想の伝達は、芸術作品に込められた模倣素を通じてのみ、可能である。我々の思想が言語の形で残る場合も、その言語芸術が模倣素そのものである。
遺伝子の延長にある模倣素は、我々の遺伝子が外界に与えた何らかの作為の単位であり、この技が文明に残した影響度がよい結果を伴うほど、その模倣素を最初に生み出した個性の誉れは高まる。また一度獲得された模倣素が或る共通の遺伝子をもった個体により再利用される時、それは世代を超えた情報伝達になりうる。つまり単に異なる遺伝子をもつ個体への利他的影響のみならず、模倣素は別の時代に於いて自己に有利な環境の再形成を準備する機能をもっている。