2017年10月26日

鈴木談話(戦後70年談話改)

終戦72年。かつての大戦への道のり、戦後の歩み、そして20世紀という時代が過ぎていきました。われらは過去を心静かにふり返り、歴史の教訓の中から未来への知恵を学ばなければなりません。
 100年以上前の世界には、西洋諸国による広大な植民地が、広がっていました。圧倒的な技術優位を背景に、植民地支配の波は、19世紀、アジアにも押し寄せました。その危機感が日本にとって、近代化の原動力となったことは、間違いありません。アジアで最初に立憲政治を打ち立て、独立を守り抜きました。アジア勢として参戦した日露戦争は、今日では詮無き事ですが、当時、植民地支配のもとにあった、多くのアジアやアフリカの人々を勇気づけた面もありました。
 ひろい世界を巻き込んだ第一次世界大戦を経て、民族自決が広がり、それまでの植民地化にはブレーキがかかりました。しかし、この大戦は、1000万人もの戦死者を出す悲惨な戦争でもありました。人々は「平和」を強く願い、国際連盟を創設、不戦条約をつくりあげました。こうして戦争自体を違法化する、今日に至る国際社会の潮流が生まれました。
 当初は、日本も世界に足並みを揃えているようでした。しかし世界恐慌が発生、欧米諸国が植民地経済を巻き込んだ、貿易のブロック化を進めると、日本経済はそれに伴う大打撃を受けました。次第に日本は孤立感を深め、外交的、貿易的な行き詰まりを、力の行使によって解決しようと試みる野卑な力が台頭していきました。当時の日本国内の政治制度は、その暴走への歯止めたりえなかった。こうして日本は、世界の大勢を見失っていきました。
 満州事変、そして国際連盟からの脱退。日本は次第に、諸国が壮絶な犠牲の上に築こうとした新秩序への挑戦者となっていきました。進むべき針路を誤り、戦争への道を進んで行きました。そして72年前。日本は、敗戦しました。
 戦後72年にあたり、国内外に斃れたすべての人々の命の前に、深くこうべを垂れ、悔恨の情の中、とわの哀悼を捧げます。
 先の大戦では、300万あまりの同胞の命が失われました。祖国の行く末を案じ、家族の幸せを願いながら、戦陣に散った人たち。終戦後、酷寒の、あるいは灼熱の遠い異郷の地にあって、飢えや病に苦しみ、亡くなっていった方々。広島や長崎での原爆投下、各都市での悲惨な空襲、沖縄における地上戦など、つぎつぎにたくさんの市井の人々が、無残にも犠牲となりました。
 戦火を交えた国々でも、将来ある若者たちの命が、無情にも失われました。中国、東南アジア、太平洋の島々など、戦場となった地域では、戦闘自体のみならず、食糧難に伴う飢餓により、多くの無辜の民が苦しみぬきながら、犠牲となっていきました。戦争の陰には、深く名誉と尊厳、たましいを傷つけられた女性たちがいたことも、忘れてはなりません。
 何の罪もない人々に、計り知れない損害と苦痛を、我が国日本が与えた事実。歴史とは実に取り返しのつかない、過酷なものです。そのあまりの凄惨さに私たちは立ち尽くします。一人ひとりに、それぞれの人生があり、おいかけるべき夢があり、ときに愛する家族もあった。この当然の事実をかみしめる時、今なお、すべての言葉を失い、ただただ、断腸の念を禁じ得ません。
 これほどまでの尊い犠牲の上に、現在の平和がある。これが、戦後にはじめて民定化された、誇り高きわが日本国憲法の原点であります。
 先ず何より、二度と戦争の惨禍を繰り返してはならない。わが国の憲法第一の理念です。
 事変、侵略、戦争。我々を苦しめ、痛めつける、或いは恐怖にさらすだろうあらゆる力を前にして、いかなる武力をもちいた威嚇、その行使も、国際紛争を解決する手段としては、もう二度と用いない。人間性を奪うあのおわりなき植民地支配から永遠に訣別し、すべての国民を苦役から開放する、民族自決と自存の権利が、絶対に尊重される世界にしなければならない。
 二度の世界大戦への深い悔悟と共に、わが国民は、そう誓いました。自由で民主的な、あらたな国を創り上げながら、みずから法の支配を重んじ、また一方でひたすら不戦の誓いをひとり堅持してまいりました。72年間に及ぶ平和国家としての歩みに、私たちは胸に希望を抱きながら、この不動の方針を、これからも全世界に誇り貫いてまいります。
 わが国日本は、先の大戦における行いについて、くりかえし、痛切な反省からくる心からのお詫びの気持ちを、幾度となく国際社会へ表明してきました。この改心を実際の行いで示す必要が我々にはあります。日本国は、韓国、中国はじめ台湾、インドネシア、フィリピンなど、東南アジアの国々、すなわち隣人にして同胞である、アジアの人々がともに、或いは自らの力で歩んできた苦難の歴史を胸に刻みつつ、戦後一貫して、全ての国々の平和と繁栄のために力を尽くしてきました。
 こうした歴代内閣の自負する立場、アジア同胞への思いは、今後も、揺るぎないものであります。ただ、私たちがいかなる努力を尽くそうとも、家族を失った方々の悲しみ、非情にももたらされた戦禍によって、塗炭の苦しみを味わった人々の辛い記憶は、これからも、決して癒えることはないでしょう。
 ですから、私たちは、心に留めなければなりません。戦後、600万人を超えるひきあげ者が、アジア太平洋の各地から無事に日本へ生還でき、新しい国造りの原動力となった事実を。中国に置き去りにされた3000人近い日本人の子どもも、なんとかいきのこって無事成長し、再びこの祖国の土を踏むことができた時の喜びやかなしみを。アメリカやイギリス、オランダ、オーストラリア等、元捕虜となられた皆さまが、長年にわたり、日本を訪れてくださり、お互いの戦死者のため尊き慰霊を続けてくれている現実を。
 あの戦争の苦痛を嘗め尽くした中国人の皆さまや、日本軍によって耐え難い受難をされた元捕虜の皆さまが、それほどわが国に寛容であるためには、どれほど心の葛藤があり、いかばかりほどの克己の努力が必要であったか。そのことを、私たちは肝に銘じ、わが国をとりかこむ人々のはかり知れない親切と真心に思いを致さなければなりません。
 底知れない慈悲、博愛とゆるしの心によって、わが日本は、なんとか戦後、国際社会に復帰することができました。どれほどの感謝が必要でしょうか。戦後72年のこの機にあたり、わが国日本は、和解のために、恩讐を超え、力を尽くしてくださった、すべての国々の皆さま、わが国の国際復帰を歓迎してくださったこの世のすべての方々に、心からの感謝の気持ちを表したいと思います。
 本当にありがとうございます。
 わが日本では、戦後生まれの世代が、今や人口の8割を超えています。あの戦争には何ら関わりのない、私たちの子や孫、次世代の若者たちに、ふたたび我々と同じく謝罪を必要とするような、過ちに満ちた戦争への宿命を背負わせてはなりません。私たち日本人は、世代を超えて、過去の歴史に真剣に、臆することなく真正面から向き合わなければなりません。謙虚な気持ちで、過去に我々の先祖の中で起きた全ての出来事を受け継ぎ、絶え間ない再考や、展望と夢、そして変わりなき郷土の姿、たとえ完璧な過去ではなかったとしても愛すべき自分の国という自信と共に、未来の世代へと引き渡す責任があります。
 私たちの親、そのまた親の世代が、戦後の焼け野原、貧しさのどん底の中で、たがいに助け合い、よりそって命をつなぐことができた。彼らの見ていた希望は、罪深い絶望のなかからでも、懺悔と改心のなかで浄化され、復興の力へと再生されていきました。そして、いまの私たちの世代、さらに次世代へと、あしたをつないでいくことができる。それは偉大な先人たちのたゆまぬ努力と共に、かつては敵として正義を賭して熾烈に戦った、アメリカ、オーストラリア、ヨーロッパ諸国をはじめ、本当にたくさんの国々から、嘗ての無理解と断絶の闇を越えて、敗戦の中で倒れこんだ我々に、いつくしみによる善意とあたたかな支援の手がさしのべられ、そして相互理解への橋がかけられたおかげであります。
 私たちは、未来へと語り継いでいかなければならない。このわが国にあった立派な歴史の教訓を深く胸に刻み、より良い未来を切り拓いていく。我々のアジアの平和、そして地球の全ての国々の幸を願い、自らにできる限り他国をも助けるために力を尽くす。再びこの一つの地球の国際社会にもどってこれた我々には、いまや大きな責任があります。
 私たちは、自らの行き詰まりを他者への武力によって打開しようとしたあの浅ましい過去を、この胸に刻み続けます。わが国日本は、いかなる紛争も、法の支配を尊重することで、武力の行使によってではなく、ひたすら和平と和睦によって、文明の普遍的道徳に基づき、外交的に解決すべきである。この先祖の血の鉄則を、これからもただ堅く守り、世界の国々にも我々の思いが分かっていただけるよう働きかけてまいります。唯一の核被曝国として、核兵器の不拡散と、我々の先祖が嘆いた人を殺める為の装置としての完全廃絶を目指し、国連諸国と共に、被曝者達の死屍累々の悲劇の山の上で誓った、みずからに天より託された使命を果たしてまいります。
 私たちは、かの20世紀に戦時環境下で、多くの女性たちの心と体が酷く傷つけられた過去を、その信じがたい過ちがあった事実を、この胸に刻み続けます。わが国はどこまでも、やりきれない不条理に苦しむ女性の置かれた悲しみに、常に寄り添っている心優しい国でありたい。21世紀こそ、女性の人権が一切傷つけられることのない貴い世紀とするため、わが国も率先して世界に範を垂れていくつもりです。
 私たちは、貿易のブロック化が相互不信ととめどない戦禍拡大の芽を育てた過去を、しっています。わが国は、どの国のわがままにもふりまわされない、公平で、開かれた地球的経済を発展させ、途上国に繁栄と自助の目印をたて、この世界に更なる生きる力と助け合いを牽引してまいります。紛争でなくお互いに対する思いやりと繁栄こそ、平和で幸多き世の中の礎です。暴力の温床ともなる貧困をさぐりあて、わが国のみならずこの星のあらゆる人々に、われわれのもてる医療と教育、文化的生活とみずからの生き方を選び取る自由をえられる機会を提供するため、なお一層、社会貢献を尽くしてまいります。
 私たちは、利己と暴走のゆえに、世界平和の破壊者となってしまった過去を、この胸に刻み続けます。だからこそ、わが国は、自由、平等、博愛、公平、正義、民主主義そして人権といった、廃墟の中で新たに定めたこの国の基本的価値をしっかりと、揺るぎないものとし、素晴らしいいつくしみを共有する国々と手を携えて、この誇らしい平和主義の国旗を高く掲げ、世界の平和と繁栄にこれまで以上に貢献してまいります。
 終戦80年、90年、さらには100年に向けて、そのようなまことの日本を、国民の皆様と共に創り上げていく。わが祖国への決意を新たにするのであります。