人間としての私は地球社会の構造に在って孤独だった。私にとって地球という星は仮設の足場であった事をここへ明示しておく。殆ど凡ての個体は話し合うに足る知能を持ってはいなかった。従って、私は常々おのれを啓蒙の便宜に長けた人物として丁寧至極に彫琢せねばならなかった。この手間は大変なものである。
私は遂には教育機関を利用した。そこで「教授」というつたない名義を被れば、地球上の拙劣なintelligenceと交わる不便の大半を避けるに易かった。
非常に私小説的な告白にはなるのだが、実際私には異性との発情的遊戯に対してですら馬鹿以上の意味をみいだせない若者だった。だから、俗物を退けるのと全く同じ定義で異性も避けた。
結局私は幼い頃からの自分の悩みの総てが、他個体との知能格差に因るものであった事へ気づいた。そして第一に隠世、第二に多少あれどの天才以外の人物との接触を飽くまで最小限化する処世の工夫で、この問題をほぼ完全に解消することができた。
孤高、或いは遁世的求道がみちびく結果はひとつだった。それが理の所残である。