2006年10月30日

写生

美しい時は過ぎて、旅先の店は静かに閉まる。奥に舞う女は夜を経て移る。月が僅かに照らす風景には様々な生活が反射する。自然は人間に格差を設けて、種類の遊びを調節する。
 鳥は、やがて明ける地平線のうえの雲を追い駆ける。事物は順序に応じて変転する。
 数知れず愛情を育み、溢れ落ちる魂の群れ。
 建設を続けていく地上の風景にはどんな確定もない。神様は誰のために世界を創りあげたのか。
 四季をうつろわせて大衆はかなしむ。空は七色を微妙に混ぜ合わせて笑う。何の為に。
 繁殖を繰り返す生き物たち。海辺では打ち寄せる波が絶え間ない音楽を奏でる。蟹や人手が生態系を営んでいる。
 雲は太陽からの放射に溶けて、緩やかに曲がる水平線を曖昧に均す。昼月がぼんやり、薄氷の残り香みたいに天気を象徴している。
 言葉は世界を再現する。理念界と現象界とを文によって通訳する。
 時代を経て遺された感慨は文化の記録となる。われわれはそれを民族風紀のなかに積み重ねる。雨音は久しく、秋の夜長は優しい。
 雷が静寂を破って暫くすると、寝室には沈黙が戻った。罪のない子供はいないのに、否応なく、再び虚を衝いて彼らは誕生するのだ。
 章は気がつくと顔を洗って外に出た。東雲は歪んだ円錐の貌を取って棚引いた。
 山奥から繋がる習性として彼は社会に参画した。秘密は次第に慣れて、運命は老廃を選ぶ。世代を代謝して文明は進む。
 雄飛する烏の一羽についた目玉は光線を機構に接して視た。
 世は退屈を諦めて、溜め息をついた。さらさらと笹が流れて夏空を浸した。