2006年10月15日

南画

不確定な要素間に繋がって度に、くる/\と巧迂の斬枝をつんざく金伐り声。森間の半透雲は山中に走る一匹の兎を捉える。追い駆けるのは名も無き狩人。深い陽が天上の大空を葺いて射して来る。深淵の奥は水墨に霞んで視えない。
 やがてしんとなる。誰も何物をも動かせない。ゆっくり涼風が、蕨の萌え出ずる隙をふいに抜く。滝川の香りが伝わり、低層草木の足本で転がるだんご虫の髭を散らした、おかしさ。
 時に獣路を冒して歩む一介の行人あり。かたわらに携えた二刀を揺らしてにじり、薄氷霜雪に混じる光隠をまばらとす。やがて盗賊のたれかの放つ矢が到りてかの胸を貫く。どさり、と鳴り倒れてから動かぬ。清流の泰滔たる斉唱だけが風景に舞う。
 夕闇が暮れて梟の方々鳴く音程が一帯の覇権を指揮する。錆びた大気が麒麟をなつかせる半月を点灯した途端、杉林は一斉に風前燭になびく。群雲が神に雷を留める。水上から挿し込む厳かな丑蜜時の照明はやわらかい。なまあたゝかい足首が長細き指先に、複雑なまでに絡みあって泣いた。ぬるい快楽に泳ぐ夜半過ぎよ。巻物の内で。
 ピイ/\゜とわなゝいて早くも旦見を知らせる雀のひよどりが柱間に躍る。依りどり緑に微妙の差分を制作しては撒き、連ねては塗る。まるで行動画の見本市だ。πパイの幽幻な円弧を幾重引いた線を投げて林林と交錯して派手にやる。それは数多の蝶々鳥類の物理事象率的軌跡である。だが故に面明おもあかし。超然としてそびえる山岳の一縷に飛ぶ龍の目の当たりには、かようの再現が忽ちふれる。ともあれ二度と世は知れない、伝え無きこと。