やがてしんとなる。誰も何物をも動かせない。ゆっくり涼風が、蕨の萌え出ずる隙をふいに抜く。滝川の香りが伝わり、低層草木の足本で転がるだんご虫の髭を散らした、おかしさ。
時に獣路を冒して歩む一介の行人あり。かたわらに携えた二刀を揺らしてにじり、薄氷霜雪に混じる光隠をまばらとす。やがて盗賊のたれかの放つ矢が到りてかの胸を貫く。どさり、と鳴り倒れてから動かぬ。清流の泰滔たる斉唱だけが風景に舞う。
夕闇が暮れて梟の方々鳴く音程が一帯の覇権を指揮する。錆びた大気が麒麟をなつかせる半月を点灯した途端、杉林は一斉に風前燭になびく。群雲が神に雷を留める。水上から挿し込む厳かな丑蜜時の照明はやわらかい。なまあたゝかい足首が長細き指先に、複雑なまでに絡みあって泣いた。ぬるい快楽に泳ぐ夜半過ぎよ。巻物の内で。
ピイ/\゜とわなゝいて早くも旦見を知らせる雀のひよどりが柱間に躍る。依りどり緑に微妙の差分を制作しては撒き、連ねては塗る。まるで行動画の見本市だ。