2006年10月1日

ある日

飛び交う船が貿易の空線を示す。近未来都市を歩く一個の影が地球の秩序を描いていく。秋の空は変わりやすく、乙女心はそこに落とされた画龍乃睛の様。月に棲む兎が跳ねるのに合わせて、地表の文化は次第次第に転回する。諸命は恰かも夢現の隙を惑う非常のはためきに有る。
 大地の抗争は社会を築く詳解を示さんが為、図像群を試行しては嘗玩す。あたかも地上絵をもてあそぶ子ども、快闊しては瓦解す。昼夜は男女の游に似て、色々の日常非日常をくるくると入れ替える。世界史は総てを一矢の跳躍に返還する。それは個々人の生涯を単なる点へと集約し、いつかは形而上に向かって省略してしまう。
 青年は語る。僕は時を駆けて来た。日月は止まず、活動は絶えなかった。星晨は震えて明日を煩った。秘密は知れた。
 いまや夜闇は僕を怖がらせない。だが、もう東雲に心を響かせられる事も無いのだ。宇宙の夕立は果てなく明るい世界を暫く蔓延らせた、尽きせぬ文明の遊興によって。
 一台の空中自動車の助手席に座った女性は、唯、それに頷いた。まるで私たちの今日がいま、終わったみたく。