川上から他の子の騒ぎ立てる声がする。
川を下っていったひとりを探しに、ザブザブ音をたてて向こうから子がやってくる。それを見る。そしてふざけて、また飛ぶ円盤を投げる。辛うじて横をすり抜けていく小さな石。怒って水を叩き、海の化け物みたいに追い立てる。辺りに歓声が響く。
やがてお昼時になって、バックパックから水筒とおにぎりを取り出し、みんなは食べる。麦茶の香りがさらさらと頭上から降り注ぐまばらな陽光に溶けてゆく。
自然のなかではどんな不思議も起こりうるのだと、僕は思う。或いは物理法則に則ったものだとしても。
「先生、魚とった」と、子供が叫ぶ。
その子の手にはほんの稚魚だと思われる、透き通った肌を持つちいさな鮎の子が握られている。
「おぉ、すごいね。綺麗だ」
「焼いて食べよう」
「かわいそうだよ」
「逃がしてあげよう」
僕は黙って一部始終を眺めている。やがてひとりの女の子がそれを手のひらから取りかえし、川に還してやる。いつしか運が悪くなければ彼は再び成長して、この土地に帰る。そして新しい生命をつくるだろう。