猫が歩いていく。場所は名前のない大都会。誰にも知られない秘密の経路を辿って、高層ビルの隙間を渡り進んでいく。視点はからすになって、そんな猫の行く先を追跡している。やがて彼女は小さな路地の抜け穴の奥に消えていった。からすは夜明け前の朝焼け空を飛び去った。西の方には三日月が架かって、冷ややかな微笑みを浮かべていた。
私は始発の地下鉄に載って、この街までやって来た。何の当てもなく点滅する信号機をよそ目に、ハイヒールを静まり返った朝四時の都心に響かせていく。そして一件の建物の前に着くと、おもむろにハンドバックからカードキーの入ったパスカードケースを取り出し、センサーを解除してその中に消える。
太陽が次第に昇り、からすの鳴き声がする。たまに聞こえる長距離トラックの音がこの都市に、序章を奏でている。