2006年2月3日

砂浜の温かさ

海から吹いてくる優しい風が、君の人生を尽きせぬ想いで満たして行く。そして君は少しずつ孤独になる。純粋に、直摯に。
 君は、なぜ産まれて来たのか、どうして生きて行かねばならないか、自らに問うている。君が見つけられる答えは高が知れている。それは生きる行為自体でしか無い。考える主体として君へは世界の中で自由を与えられている。代償として、死が義務づけられている。
 だが、と君は思う。それでも私たちは産まれる価値があるのだろうか。決められるのは人だよと、月は言う。砂浜のテトラポットの上に座り、押し寄せては崩れ落ちる波の形相を眺めていた。人の他の何者もそれに関わることはできない。やがて夜になり、それは頭上に浮かんだ。
 水平線に、船の明かりが浮かぶ。静かな波の音が聞こえる。月が海の向こう側に落ちる。暗い海の底で、彼らは今も生きているのだ。
 次第に空が白み始め、弱い円の縁がオレンジ色に染まり出す。月は泣きだしてしまう。どうしてかは分からない。ただ、月は無性に泣きたい気分なのだ。すると太陽は東雲に紛れてその涙を微妙に輝かせた。僕にはそれをすくい上げることしかできない。だが、僕にはそれができる。命ある限りここで、月を守り続けることはできる。波間に紛れてそんなつまらない泪は流れ去ってしまえばいいのだ。