無限に続く人類の歴史がはっきり見通せる。沢山の人が死に、生まれる。その戯れがくっきり細部まで見える。どうして生まれ来たのか、どうやって死んでいくのか、そして何が大切なのか。世界には数限りない人がいる。私はそんな取るに足らない名も無き人物の一人だ。別に言い訳をする気はない。すぐに物事に負けて、自己嫌悪に陥る。それでも何とか死ぬ機会にも触れず、生き抜いてる。ところで人はやがて新しい地平線へ向かって一歩ずつ歩み出す。きっとその道は正しい。どこまでも広がる希望の海が人をやさしく包み込んでいる。それを見送っている。
季節は冬だ。私は君の旅立った世界の片隅で、夕方、牛乳を電子レンジで温めて窓辺に立つ。暁に染まったビルの谷間の空には半月が微笑んでいる。君は月に帰ってしまったのだ。私にはそれが分かる。
そしてゆっくりと日が暮れて、辺りはとっくり闇に沈む。私は誰もいないワンルームの部屋から街の隙間を縫うように流れていく車のライトを眺めている。それらは誰かや何かを運んでどこかへ進んでいくのだ。