2020年2月16日

アベノミクス症候群の分析による財政健全化論

財政赤字を拡大すると、収益性の低い分野に或る国の資本を投下する結果として、国単位の経済成長率を引き下げる効果がある。

 財政収支の均衡を、貨幣錯覚の解消説(フィリップス曲線が成立しない、即ち物価上昇に必ずしも実質賃金がついてこない場合はないと考える立場)によるインフレターゲットの立場から半ば後回しにする近代貨幣理論(MMT)の本質的欠陥は、因果関係を取り違えている点にある。
 経済成長を伴う物価上昇(通貨膨張・貨幣インフレ)がみられるのは実質賃金が上がったことによるのだが、現代日本のよう、物価上昇にもかかわらず決して実質賃金が上がらない場合がある。これをここでは「アベノミクス症候群」という。
 フィリップス曲線(物価上昇率と失業率の負相関)が成立する必要条件の一つは実質賃金の上昇にあるが、現代日本のよう非正規雇用への置き換え、設備機械の導入による業務自動化、経団連と癒着した自民寡頭政治による労組の弱体化などで、実質賃金が上がらない場合をMMTでは前提に置いていない。
 アベノミクス症候群とは、「大規模な金融緩和の影響で円の貨幣価値が下がり、原材料の輸入費が相対的に増すため、国内の物価が上がるのにもかかわらず、労組を抑圧している政経体制下では、経営者による労働者の賃金抑制の鼓舞が働く」ことを意味している。物価上昇と実質賃金低下が同時に来る状態だ。

 即ち、MMTでは

物価上昇→景気拡大

を主張しているが、真の因果関係は逆である。

(実質賃金上昇)→景気拡大→物価上昇

しかも、アベノミクス症候群を伴うとフィリップス曲線が表面上成立していても景気停滞に留まる。なぜなら低賃金労働者がふえていれば

(実質賃金抑制)→景気停滞→物価上昇

 MMT論者は、因果関係と相関関係と取り違える、という統計分析の初歩的な誤りを犯している。
 より詳しく場合分けすれば、相関ではなく因果によるフィリップス曲線を巡っては次の4つの場合がありうる。
1.フィリップス曲線(物価上昇率と失業率が負相関)
2.アベノミクス症候群(1.通常の負相関の裏で、実質賃金低下と物価上昇が正相関)
3.負のフィリップス曲線(物価上昇率と失業率が正相関)
4.負のアベノミクス症候群(3.負のフィリップス曲線の裏で、実質賃金低下と物価上昇が負相関)

 現代日本が置かれているのは2.アベノミクス症候群であり、上述のよう真の因果関係は実質賃金の抑制が結果として景気停滞と物価上昇を同時に持ってくる状況なので、MMT論者の主張する「標的物価上昇(インフレターゲット)」の金融政策を行っても景気拡大は伴わず、寧ろ更に経済成長率が下がる。
 冒頭に挙げたよう、財政赤字の拡大は非収益分野への資本投下にほかならず、国単位の経済効率を悪化させる。アベノミクス症候群下で財政赤字を拡大すると、国内に景気停滞と同時に低成長が襲ってくる為、開放貿易下では外資に有利になる。
 よってなぜアベノミクスが全体で失敗したかは説明された。

 では今後の財政方途がどうあるべきかだが、第一に計画経済から撤退し、民間委託を前提に、非収益性の高い農業や福祉、並びに僻地の交通や建設基盤の保全など公益事業を除いて、労働市場に干渉する国社的自民政策の轍を完全に出ることである。政経分離を貫き労組と経団連の賃金闘争を再開させるべきだ。
 なぜなら、アベノミクス症候群の元凶が、経団連と癒着した自民党派閥が、健全な賃金闘争を抑圧してきたことによる実質賃金の低下なことは、経済停滞の因果関係を根本原因まで辿れば上記で説明済みだからである。
 これに伴って、国会で企業献金禁止法を成立させ、政党と企業の癒着を禁じるべきだ。
 次に、そもそも財政赤字の拡大こそ、国単位での資本投下収益率の低下による低経済成長率の原因なのだから、できるだけ財政出動の絶対費用を抑制する必要がある。しかしこれは公益事業をきりすてるべきという事を意味しない。非公益性の高い事業を民営化したり、公益分野でも民間委託を駆使すべきだ。
 公務員の絶対数が少ない状態は、長い目でみて、国単位の経済力を増す結果になる。パーキンソンの法則を引くまでもなく、収益に関係しない職業だからだ。したがって公務員数を抑制または削減しながら、事務的な業務を機械におきかえたり、民間委託していくのが基本的筋である。