2012年7月1日

戦と平

人類は神になれなかったので、やっかみで戦をはじめた。神なるものののりにめざめるほど、戦をつくりださねばならなくなった。
 神にくらべ人はいかにもいやしく、永遠にはとおく、はたらかねばその日のたべものさえことかいた。神へのあこがれは音楽をつくりだし、美術をくわしくし、建物と振る舞いを貴くした。
 神とみおとりしないと人からおもわれるむずかしさは、すさまじいえらさをよびさましたがった。まつりごとはこうしてむれをひきい、大世界を自在で縦横無尽にかけめぐる英雄をもちいようとした。世界精神、と哲学者がよんだはたらきさえ、神ほどのなをかりて人のあいだにおおきな喧嘩をつくりだすだけだった。
 ただひとり、詩人だけはこのしわざにかかわりなかったゆえ神からとわに愛され、その地位を不動とした。かくしてひとはうたをのみ、神の特徴とおぼえていった。
 よきうたは人のなかにすみつき、神のことばとなっていった。わたしたちが神らしさをみるのはこのゆえなのだ。神はことばであり、それは理想のうえにある。
 おごれるものはひさしからず。人へいくさするものたちはそのことばをのぞき、よにみをとどめられずにさっていった。ことばよりいとしまれたおこないはない。
 よにたいらかなおこないはことばのみがのこった。そして、かずしれぬ人がさったあと、それがよのはたらきとなった。