2008年2月16日

独学論

日本が世界に劣る唯一の所は科学。そして欧米文明から我々が習うべき唯一の点も又、科学の方法にある。

 道徳に関してはむしろ古きよき日本の方に模範があると謂われ得る。日本の哲学に足りなかったのは単にその批判対象となる科学的知識のみに過ぎない。凡そ武士道より高潔な人倫がこの地上のどこにありえただろうか。日本文明が明治維新以来、大幅に組織を組み換えねばならなかったのは専ら科学文化の摂取という一点に至る。従って、将来に渡り日本文明が欧米文明に比類超越しうる為の最大限の貢献こそは、科学的大成であるだろう。そして科学文化の方法的模範はイギリス風土にあると考えられる。例え他の側面に関しては必ずしも模範に足らぬとしてあれニュートンは純粋に自己目的な内省、一切の実践や技術に関わらない理論の為の理論を大学にありながら独学したのだった。
 日本における実践理性への偏りは甚だしい文明の弊害。日本風土では理論の為の理論は何かしら、無用の産物として卑しめられる気分すらある。これが政治理論であった儒教・朱子学の残滓なのは疑いない。凡そ大学は真理探求の城ではなく、就職や仕官の予備校として、学歴だけを目指す手段にまで低落してしまっている。これが日本文明の一大欠点として、純粋理性・理論理性すなわち悟性あるいは知性の自己目的活動としての科学探究への民族的障壁となってつっかえている。

 日本文明の弱点を克服するには独学の興隆が是非とも必要である。科挙の鞍換えに過ぎない学歴制は脱構されて然るべきだろう。