2009年11月5日

将軍

なんのことか存じ上げませんけれど、とその公家は言った。
とてもたのしゅう夕餉ゆうげにてございました。
国民の金であろうが、なにを遠慮などしましょう。
わたくし達には有り余る富があるのです!
その公家は京都の文法を絶対視した挙げ句、
あっという間に軍人に牛耳られて
ボロボロになった憲法ごと殺される前に自殺した。
だれが同情するんだよ? あなた方の生前の功徳など
あの晩餐会で僕の働いた金で豪華な和牛を喰った事だけ
それともゲイシャと遊び回るあなたの祖先がなにか
猥談以外のえらい業績でも、私たちのためにのこしたとでも?
その公家は、とっくの昔に仇をとった
白虎隊の墓場のうえで踊りくさっていたにすぎない。
薩長の下心に流された道化芝居をね。
それともあなた方の命一つが、あの何億もの特攻隊員よりも
主君を信じて忠義を尽くした、まだ成年式も終えない
幾多の魂をつきうごかしたわれらの魂よりも
貴いとでも? それをやしなっているのが
俺らの汗水たらして働き通した衣食住の品物でも?
お前は俺達を裏切った。そして、狂ったゲイシャ遊びをし、
遂にはアメリカ人に殺されかかって命乞いをした。
さもなければ今、こうして
あの墓の前で祈りを捧げる多くの
侍たちの心を裏切りつづけるだろう。京都の人よ。貴様には
少しの勇気もない
おかわいそうに、ご機嫌をつくろいなさって
僕はその声を、刀で叩き斬るだろう。それが
すでに失われてしまった主君の、最後の将軍の仇なのだ