最近、村上春樹が15年前にイスラエルの文学賞を貰った時にしたスピーチの事をよく思い出す。時を経ても色褪せない普遍性のある素晴らしいスピーチだった。
「もしここに硬い大きな壁があり、そこにぶつかって割れる卵があったとしたら、私は常に卵の側に立ちます。」
彼がこのスピーチをしたのはガザで激しい戦闘が起こっていた頃。当事国でこのスピーチをするのは相当な勇気だったはず。
「そう、どれほど壁が正しく、卵が間違っていたとしても、それでもなお私は卵の側に立ちます。~中略~我々はみんな多かれ少なかれ、それぞれにひとつの卵なのだと。かけがえのないひとつの魂と、それをくるむ脆い殻を持った卵なのだと。私もそうだし、あなた方もそうです。そして我々はみんな多かれ少なかれ、それぞれにとっての硬い大きな壁に直面しているのです。その壁は名前を持っています。それは「システム」と呼ばれています。そのシステムは本来は我々を護るべきはずのものです。しかしあるときにはそれが独り立ちして我々を殺し、我々に人を殺させるのです。冷たく、効率よく、そしてシステマティックに。~中略~私がここで皆さんに伝えたいことはひとつです。国籍や人種や宗教を超えて、我々はみんな一人一人の人間です。システムという強固な壁を前にした、ひとつひとつの卵です。我々にはとても勝ち目はないように見えます。壁はあまりにも高く硬く、そして冷ややかです。もし我々に勝ち目のようなものがあるとしたら、それは我々が自らのそしてお互いの魂のかけがえのなさを信じ、その温かみを寄せ合わせることから生まれてくるものでしかありません。」
人間は学ばず、世界中で多くの問題に解決の糸口が見えない現在、そして未来。透明な眼と視野を持って重要な示唆を示してくれるのは、世界と人間を深淵から見つめ続ける芸術の徒なのではないかと思う。
訳文はこちらのサイトから引用させて頂きました。とても良い訳だと思いました。こちらから全文読めます。(広告多め)
https://murakami-haruki-times.com/jerusalemprize/
こちらにも訳文と英語原文が載っております。
https://ameblo.jp/fwic7889/entry-10210795708.html
――Makoto Iijima
『遠い太鼓』でイタリア人のホロコーストジョークの記述があり、作者に訂正依頼だしても無視されたと以前、ユダヤ系だろう方が、SWCに非難を伝えているのをみました。
春樹の反ユダヤ主義っぽさは色々問題ある。米国の肩もちがちで必ずしも平和主義でもなさげ。あなたの信じる普遍性とは違うでしょうが。
要するにあなたは建国思想・シオニズムとパレスチナへのその軍事的強要が悪という見地を抽象化して、単なる弱肉強食の否定にみせかけた風な春樹の論点に「普遍性ある」と仰りたかったのだろうと推測しますが、彼の全小説読んでる側としては彼が決してモラリストでない事を知ってるので、偽善と感じます。例えば『羊をめぐる冒険』で羊男への主人公による暴力正当化の記述が出ますし、『ねじまき鳥クロニクル』でもノモンハンなどで激しく暴力を振るう様子が決して否定的でなく出たと思いますし、性道徳面なら無論『スプートニクの恋人』で弱者といえる不倫相手の子の前で主人公は開き直ったりしますし。
春樹は小説中でほか毎度の姦淫や浮気模様を大分美化したり、社会正義にやれやれとか言って斜め上からからかう冷淡な論調は初期作品から不動なので、いきなり演説で反ユダヤ主義口調なのは、しかもイスラエルの賞だった事からも確かに国際的に驚かれた。つまり彼のユダヤ人への一種の偏見が感じられる。
ガザを実効支配するハマス側が善で、以軍は悪という二元論をあなたは恐らくとりたいのでしょう。そういう論調は原爆保有と考えられる以軍側の力が、米軍を背に圧倒的に大きく見える事から、反ユダヤ主義を媒介し易い。だから春樹が抽象化した。けど、建国思想の以政府側からみれば偽善は偽善でしょう。孔子は巧言令色鮮し仁といった。反ユダヤ主義的論点を抽象化した春樹の演説に、自分はそれをあてたい。彼の小説を実に長らく読んできた側として直感的に怪しいと感じ少しも共感できないし、明らかにその場限りでひねり出した文句で、以前から政治的無関心なのが彼の位置どりだった。唯のノーベル賞対策。
まぁ純粋な政治論としていうと、ハマスは聖戦派なので侵略犯とみた以政府を聖地排除するか、以軍に殲滅されるまで赤色テロを正義とみるでしょう。その肩をもつ事は以巴周辺に継続的戦闘を生み出す。だから早く戦争終結させる為だけにはハマス排除の方が速いともいえて、巴政府も国際社会も逡巡している。明らかに建国思想がもとはユダヤ人の聖地だったという古代の経緯から先住権侵害を無理強いしている面があり、以政府と聖戦派の宗教的対立自体は解消できない。
よって現実解法はハマス殲滅とファタハらパレスチナ政府主流派による以国ガザ占領承認に至る。春樹はまずそこまで予想してないでしょうが。
巨視的・長期的にみれば以上の様、総じて以政府の勝利は堅いので、聖戦派が武力不足のため当面は聖地を失い、散りぢりになった勢力も捕縛され処刑。以後、聖戦派共鳴者が何らかの資金源をみつけ義勇隊を再結成し、聖地奪還に再挑戦となるでしょう。
春樹の位置どりは政治面で当面は戦争を長引かせる。
長い目でみれば春樹の反ユダヤ主義的言説に、イスラム教徒からの共感が集まる可能性もあるが、同時に、潜在的に政宗両面での衝突をうみだす点で厄介でもある。
よってあなたが春樹の礼賛者なのかもだが、彼の煽りを単純肯定するのは私は大いに危険とみます。春樹は国際政治荒らしの一種ともいえる。