2008年1月3日

不完全

僕には昔、好きな人がいた。その女性がどこへ行ったのか分からない。後にも先にも彼女にしか恋をしたことはなかった。それから大人の齢になり、僕は他の誰かと結婚しなければならない。だが、そんな人生には殆ど意味も感じられない。僕には昔、好きな人がいた。彼女の他の女性は、まるで気の抜けた炭酸飲料の様に感じられる。僕は出口のない牢獄に閉じ込められた様に感じる。心は錆び付き、動かない。僕には昔、好きな人がいたのだったけれど。後にも先にも彼女にしか恋をしたことはなかった。そして彼女はどこかへと消えてしまった。そのひとが居ない人生はまるで目的のない放浪の旅の如くだ。僕にも昔は、好きな人がいたのだ。恋する力は彼女と共に失われてしまった。
 僕は見えない闇の向こうに君の姿を探し求めているだけだ。後にも先にも彼女以外の女性に恋したことはなかったのだから。結び目の見つからない綺麗な糸はほどけて、天の川銀河の激しい流れに散りぢりになってしまった。僕にはこの世で残された命を消費するのが無駄骨に感じられる。彼女はどこへ行ったのかも分からない。大きな運命の力が僕をも支配して、本当に幸せになる為の方法を掻き消して行った。やがては僕の姿ですら、宇宙の塵芥になって消えてしまった。恋はもう訪れないだろう。彼女以外の女性はまるで、尊敬するには値しないのだ。無力な僕は人生の意義を失ったさすらいびとも同然、何の希望も見つからない永久の砂漠を彷徨しているだけだ。もしも神様がとても慈悲深い方ならば、いつかどこかで僕を、彼女と再び出会わせる。だが、その時もう別々の家庭を持っていたら、そんなに悲しい出来事はないだろう。何の自由が与えられたにせよ、僕は後先も考えず唯一人の女性を恋し続けるしかない。そんなに悲しい出来事が当たり前の自然界にあって、人間に生まれたことは幸せだろうか。僕にも昔は、恋する力があった。だがその力はもう萎んでなくなってしまった。彼女は時の彼方へと消えてしまって、見つからない。この世では人間はあまりに不完全過ぎる。